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嫌だってば!嫌だよ!すっごい見覚えあるんだけど!無責任な兄さんに肩を押されて真ん中に放り出される。あの時は渋々わたしも合意したけど!今回は合意してない!

「嫌だってば!」
「何だよ、怖じ気づいたのか?」
「そうそう!いいよ、それで!ほら、ジオンの勝ち!」
「…それ、抜けよ。飾りじゃねェだろ」

あっ、しまった。余計なこと言っちゃった感じだ。それって、これ?やだよ。だって、

「…飾りです?」
「嘘つけ!」

嘘だけど!何を根拠にそんないきり立ってんのさ。いいじゃん別に。前回だって負けたわけじゃないでしょ。

「あっ、ほら!イゾウ隊長来た!お開き!」
「ふざけんな!逃げんのか、この野郎!」
「野郎じゃねえわ!」
「ジオン」
「…はい」

それ見ろ。怒られろ。…何で怒るんだ?何に?腕離して?何で?

「おれはロハンとやるって聞いたんだが?」
「すみません」
「面倒くせェから許可取れっつったよなァ?おれに」
「すみません」

許可制なんだ。知らなかった。ロハンさんとの後、随分好き勝手してたけど。あれは、…言ったら怒られそうだね。黙っててあげよう。

「で?」
「イズと一戦やりたいです」
「いいぞ」
「はあ!?」
「ん?」

ん、じゃねえわ待って!

「嫌です!」
「怪我する前に止めるぞ?」
「そうじゃなく!」

怪我なんか割りとどうでもいいんだよ!ベイさんのとこでも散々怪我したんだから。あれね。人間て意外と丈夫よね。

「おれの反対押し切って武器持ったんだ。今更怖いなんて言わねェよな?」
「何ちゃっかり根に持ってんですか!別に怖かないですよ!ベイさんと比べたら大体何でも平気!」
「なら何だ?まだ体痛ェか?」
「ばっ、かじゃないの、黙れ馬鹿!」
「…?怪我でもしたのか?」

どうもね!心配してくれてありがとう!そんな感じ!そっとしといて、深く聞かないで!誰だ笑ったのわかるんだからな!

「イズル、何かあんならちゃんと言え」
「…何かないと断れないんですか」
「おれも把握しておきてェからな」

…何だその業務的理由。断りにくいじゃないか。体痛いことにしておけば良かった。うぅ…。

「…磨いてもらったばっかだから使いたくない」
「あ?」「は?」

だって、折角。そりゃ、自分でやる時だって丁寧を心掛けてはいるけどさ。何でか知らないけどイゾウさんの方が上手いし。だって、…あー、くそ!恥ずか死ぬ!

「くっ、…あっはっはっは、」
「何笑ってんですか!こっちは真剣なんですけど!」

滅多とないイゾウさんの笑い声に、甲板が変な空気でいっぱいになった。そんな、笑うところじゃないでしょうよ。ジオンだってびっくりしてるよ。

「はは…あー、ジオン、武器はなしだ」
「あ、はい」
「イズルもそれでいいな?」
「…非常に不服ですが」
「そんな顔すんな。いつでもやってやるよ」

うるさい!うるさいうるさいうるさい!いつまで笑ってんだ馬鹿!



***

「…そりゃ酷だろうよ」
「あ?何だ?」
「いや、ベイさんと比べたらって。あの人に敵うやつなんかそうそういねェよ」
「マルコ隊長でも敵わねェんだもんな」
「敵わないわけじゃねェよい」
「うわっ、あっ、すみません」
「でも、ぼやいてたじゃないですか。イズがベイさんみたいになったらって」
「…ベイから妙な影響受けねェか、心配してただけだよい」




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