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「お、イズ。お前もやるか?」 甲板に出たら、ジオンとロハンさんが剣を交えていた。晴れてて、風が気持ちよくて。そうね。賭事日和ね。 「じゃあ、ロハンさんに」 「手堅いなァ」 「ジオンをこてんぱにしてくれって言う願いも込めて」 前よりもわかるようになったから、わかる。ジオンは結構やるぞ、の意味。よくもまあ、勝負したもんだ。無知ってすごい。 「あ、勝った」 「…まじかよ。大損だぜ」 「有り金全部賭けるからですよ」 「イズみてェな賭け金じゃ増えねェだろ」 「まあ、博打打ちにはなれませんね」 それでも増えたけどね。増えたところで使い道ないけどね。何か美味しい物でも探してみるか。 「何だ、イズもいたのか」 「ふふ、稼がせて頂きました」 「…そりゃ良かった」 何とも言えない顔をして、ロハンさんが隣に座った。ジオンはまだへばってる。へばってると言うか、余っ程悔しかったらしい。あ、起きた。 「イズのその金はどっから出てきてんだ?」 「はい?」 「その、イズは略奪とかしねェだろ」 「…どうでしょう?」 笑って首を傾げたら、ロハンさんがちょっと泣きそうな顔をした。夢見すぎだわ。してないけどさ。 「ゾノさんから貰った給金と、ベイさんがお小遣いくれました」 「ゾノさんからって…いつの話だよ」 「一番最初ですね。姉さんたちが買ってくれちゃうから減らないんですよ」 「羨ましいな…」 「欲がねェんだろ」 「いや、それよりベイさんから小遣いって何だよ。お前そんなに可愛がられてんの?」 「…ある意味可愛がってもらいましたけど」 それこそ、こてんぱんに。イゾウさんとどっこいどっこい。お陰様でだけど、二度は嫌だ。死んでしまう。慣れない布団で、爆睡できるくらいにはきつかった。 「いや、ちゃんと働いてたんで。その給金ですよ」 「あァ、なるほどな」 「本当に働いてたのかよ?」 「モビーでのわたしの働きを見て、そんなこと言います?」 「いや、まァ、ここでは動き回ってるけどよ」 「余所様の船なんだから、倍は働いてましたよ」 「まじか」 って言うのは流石に比喩だけど。でもまあ、同じくらいには。見張りも不寝番もやったし。 「イズは、ベイさんの船に何しに行ったんだ?」 「お勉強ですよ」 「それは薄ら聞いてるが、何を勉強して来たんだ?」 「あー、グランドラインのこととか、海軍がどうとか」 「…お前、それ知らないまま船に乗ってたのか…」 「そうですよ。まあ、知らなくても困りはしなかったですけど」 「そんなんだったら、ここでも勉強できただろ」 「他色々?」 「色々って何だよ」 ジオンが、今度は別の兄さんとやってる。元気だなあ。これはジオンが勝ちそうだ。色々って、体の動かし方とか、刃物の扱いとか。覇気もそうだけど。こんな玄人の溜まり場みたいなところで、覚えてきたよ!なんて言えない。言いにくい。あんまり言いたくない。当てになんかされないだろうけど、できる認識されても困る。 「それ、帰ってきてからずっと提げてるよな?」 「え、…あー、正確には行く時から?」 「よくイゾウ隊長が許したな」 「まあ…ちょっと喧嘩にはなりましたけど」 「何だ、イズは戦い方のべんきょーしてきたのか」 「…ちょっとだけ」 「よっしゃ、おいジオン!」 「はああああ?やめてよ!やんないからね!」 「安心しろ!有り金全部賭けてやる!」 「さっき全部すったでしょうよ!」 ロハンさん!ちょっと、頭抱えてないで止めてよ! *** 「ん?おー、イゾウ。甲板行かなくていいのか?」 「あ?」 「面白いことになってるぞ?」 「何だよ」 「イズとジオンが一戦やるってさ。イズが戦ってんの見たくねェ?」 「…見たかねェが」 「でも行くだろ?」 「ジオンもうちの隊員だからな」 「へェ?イズの心配じゃねェのか」 「それもあるが、きっちり叱ってやらねェとなァ。おれの許可なしに始めようたァ、いい度胸だ」 「そっちか」 |
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