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嫌な予感はよく当たると言うが、本当は良い予感もそこそこ当たってるんだと思う。人間の直感は馬鹿にできない。起きてて良かった。めっちゃ眠たいけど。

「白ひげの娘だな?」
「人違いでは?」
「バハハハ、惚けんじゃねェ。おれははっきり、てめェの顔を見てんだよ」

その手に掲げられた、くっしゃくしゃの紙切れ。プリントされた一枚の写真。よくもまあ、余計な置き土産をしてくれたもんだ。誰を恨もう。と言うか、何でそんなもの持ってるんだ。物持ちの良さには感心する。行儀は最悪だけどね。こんな夜中に、窓から入ってくんな。

「何ですか、それ」
「忘れたってのか?てめェが売られたオークションで映し出された写真だろうがよ!」
「存じ上げませんねえ」
「なら、白ひげは来ねェな!縛り上げろ!」

あっ、しまったそっちか。鞄を引ったくって扉を開ける。四人。どうしようか。どっかに身を隠せればいいけど、生憎そんな当てはない。

階段を半分近く飛ばして、玄関のベルが乱暴に鳴る。申し訳ない。請求はこいつらにしてくれ。随分人の減った通りは、走りやすくて逃げにくい。

「待ちやがれ!」

叫ぶ声に返事をする余裕はない。あるわけがない。待てと言われて待つ馬鹿もいない。そのお粗末な脳みそに叩き込めばいい。それだけの容量があるならな!

通りを抜け、路地を跨ぎ、とうとう銃声が上着を掠めた。この野郎。気に入ってんだぞ。

「手間掛けさせやがって…観念するんだな。大人しくついてくりゃ、丁重に扱ってやるよ」

行き着いたのは小さな袋小路。そうね。諦めたのは違いない。腕力があったら登れたけど、残念ながら無理だ。下りるのは得意なんだけどね。退路は一つ。来る道も一つ。背にした壁は、一種の盾だ。

じりじりと詰めてくるのは、十人を越えた。まだ増えると思っていい。楽観的な予測はしない。相手と自分の力量を、正しく正確に測ること。

できるだけ素早く、懐に潜り込んだ。大きな武器ばかりが優れているわけじゃない。小刀一つで、人は死ねる。物は使いよう。欠点だって利点にできる。

「くそっ、てめェ、」

銃弾を、刃を、拳を、脚を。避けて、死角に入って、急所を狙って掻っ捌く。ベイさんや、他の人たちが教えてくれたことは、ちゃんと身になってる。だって、めちゃめちゃ、本当にスパルタだったもんね。



***

「…あの野郎」
「野郎じゃないけど、してやられたって感じだね。どうすんの?」
「島まであとどのくらいだ?」
「夜通し進んで、明日の夕方ってとこだねい」
「そんなに待てるか。エース、ストライカー出せ」
「おう、いいぞ!イズに早く会いてェもんな!」
「いいなあ。おれも乗せてってよ」
「…三人は無理だろう」
「わかってるよ!」




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