164


そこそこ大きな島に見合う、そこそこ大きな街。とは言っても、三日もあれば足りる。暇だよ。数日ってどのくらいのことを言うの。
具体的な待ち合わせ場所なんて決めてない。決めようがない。わたしから連絡する術はないし、受け取る術もない。何かベイさんに嵌められた気がするんだよね。だって、幾ら天候に左右されるったって目安くらいはわかる筈だもの。余っ程浮わついてたんだな。反省。

賑やかな往来を眺めながら、サンドイッチを頬張った。通りがよく見える、二階のテラス席。毎日来ては何時間も居座って、店員さんに覚えられてしまった。サッチさんのご飯食べたい。勿論、ここのご飯も美味しいけど。
不意に、欄干の先が賑やかになって、少し身を乗り出した。馴染みのある荒っぽそうな連中が四、…いや、五人。向かいの並びにある酒場へ入っていく。知らない人だ。まあ、船にも知らない人はいるから何とも言えないが。残念。いっそ、もっと小さい港町なら良かったのに。その辺も計算してこの島なんだろうか。ねえ、ベイさん。

食べ終わった皿を端に退けて、温くなった水を飲んだ。宿も、食事も、街を歩くことだって。一人でできるようになったけど、ずっと一人はつまらない。そして、いつまでも宿に泊まってられる程、金銭的余裕はない。ベイさんが言った数日が十日を越えるようなら、どっちかを削らなきゃいけない。どちらかと言ったら食費かなあ。野宿はあんまり好きじゃない。

「…イゾウさん」

小さく小さく、出してみた声は少し掠れていた。会話する相手がいなきゃ、声を出すこともないもんね。カラオケでもあったらいいのに。あ、でもこっちの歌なんて知らない。し、カラオケにいたら兄さんたちを見つけられない。

いつもの通り、日が暮れる頃。店が閉まり出す気配に席を立った。ああ、むかつく。めちゃくちゃ寂しい人みたいじゃん。寂しいけど。今日も変わらず、街は平和で、時々喧しくて、昼から夜へ入れ替わる。言うて、この三日かそこらしか知らないけど。むかつく。酒でも飲みたい気分。飲まないけど。店員さん、何か言いたげな顔してたなあ。流石に入り浸りすぎか。安くて、静かで、結構気に入ってるんだけど。それから。

…もしかしたら、宿も変えた方がいいかもしれない。



***

「お?何だ、機嫌いいじゃねェか」
「そりゃあね。おれは見送りにも行けなかったし?」
「根に持ってんなァ」
「当たり前だろ。まさか、そんな考えなしだと思われてたなんてね」
「はは、前科があんだからしょうがねェだろ」
「…へえ、そう。そういうこと言うんだ。なら、今日はエースのご飯なしでいい?」
「いや!そうだよな!昔のことは関係ねェ!」
「…エースのそういうとこ、少し羨ましいよ」




prev / next

戻る