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いつも通りの、静かな目だった。ベイさんと、イゾウさんと。あの流氷を渡って。島内に入るのは、ちょっと難しかったらしい。まあ、普通サイズではないものね。

「暫く会えなくなるんだ。今くらいいいだろ」

そんなことを言って、返事も聞かずにわたしを抱え上げた。今更寂しい。なんて言ったら笑われそうだ。あんだけ啖呵切っといて、ねえ?

「お前ェはいいのか?」
「いいわけねェだろ」
「あんたも往生際が悪いね。可愛い子には旅をさせろって言うじゃないか」
「知らねェな。おれはイズルを箱入りにするつもりだったんだ」
「…やだ」
「グララララ、惚れた女にゃ敵わねェよなァ」

ええ、何それ。父さんにもそんな人がいるの?それとも、いたの?会ってみたい。帰ってきたら聞いてみたい。

「イズル」
「はあい」
「行ってこい。だが、無茶はするんじゃねェぞ」
「…努力はする」
「ベイ、頼んだぞ」
「任されたよ」
「イズル」
「はあい」

伸びてきた手が頬を包む。この声も、温度も、眼差しも、当分お預け。覚えておこう。できるだけ、いっぱい。

「…髪、ちゃんと拭けよ」
「ん」
「他のやつに触らせたら許さねェからな」
「具体的には?」
「一生おれの部屋から出さねェ」
「髪触られただけでその仕打ちですか?」

笑いながら、手を添えて擦り寄った。大切なものは失くしてから気づくんなら、一遍失くしてみるのも手よね。ああ、もう。寂しいなあ。

「…んな顔すんなら行くなよ」
「ふふ、行きますよ。自分で決めたんだもん」

手を離して、父さんに向き直った。伸ばしてくれた手に抱きついて、ちょっと泣きそうになる。卒業式でも泣かなかったのにね。

「父さん、ありがと」
「いつでも帰ってこい」
「うん。行ってきます」

ちょっと早いけどね。行って、帰ってくるよ。何にも変わんないかもしれないけど。



***

「あの、ロハンさん!あいつ、」
「あァ、ベイさんの船に乗るらしいな。船を下りるわけじゃねェみたいだが…」
「あの、もしかしておれが、」
「違ェよ。それはねェ。イズはそういうのを人のせいにするやつじゃねェ」
「…そう、ですか」
「ま、切っ掛けにはなっちまったかもしれねェけどな!どうする?もっと強くなって帰って来るぞ!」
「…ラクヨウ隊長、あんまりジオンを、」
「負けませんよ!おれだって強くなりますから!」
「よォし、その意気だ!そんでイゾウからぶん取ってやれ!」
「いや、それはいいです」
「がははは!イゾウに聞かせてやりてェな!」
「…また、イゾウ隊長がいないからって…」




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