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買いたい物があると言ったら、リリーさんもベイさんも来てくれた。お陰様で、珍しく女子だけで歩いている。普段はマルコさんのとことか、誰かいるから。それは、やっぱり。

「良かったの?イゾウと一緒じゃなくて」
「イゾウさんと一緒でもいいけど、どちらかと言ったら一緒じゃない方が良かったから」
「へえ?」
「どうせばれるんですけどね」

あの人、やたらと察しがいいからね。ちょっと出てくるって言って、どっかで鉢合わせないとも言えないし。隠し事じゃないし、疚しいこともないけど。内緒事。

「それで?買いたい物って?」
「んー、紐?」
「紐?」
「と言うか、糸?」
「余計に不思議だよ。糸なんか買ってどうするんだい?」
「えっとですね、…あ、ああいうの。作ってみようかと思って」

指差した先には、露店。並ぶ品物は、ミサンガのような。糸を編んだもの。組紐の方が近いのかな。

「あれ、髪紐みたいにしたら使えるかなって」
「イゾウに?」
「…まあ、できるかどうかもわかりませんし、できても欲しがるかは別ですけど」
「いらないなんて言ったら、あたしが斬り捨ててやるよ」
「ふふ、頼りにしてます」

最悪、既製品買ってばらすか。あんまりやりたくないんだけど。面倒くさいし。

人波を縫って、それっぽい店を探して歩く。時折、全然関係ない店を覗いてみたりして。ふふふ。

「なあに?ご機嫌じゃない」
「んー?両手に花だなあって」
「おや、なかなかの口説き上手じゃないか」
「そうですか?」

だって周囲の視線が痛くて。わたしにじゃないけど。そりゃ、美人が二人も並んでたら眺めちゃうよね。わかるわかる。羨ましかろ。

キィ、と軋む扉を開けた。漸く見つけた、それっぽい店。一応『open』の札はかかってたけど、薄暗い。あ、でも棚に糸が並んでる。店は間違ってなさそう。

「…こんにちは?」
「いらっしゃい」
「…っ、あ、…どうも」
「何か探しもんかい」
「あ、はい。糸を、探してて」
「糸ならその棚にあるので全部だよ」
「ありがとうございます」

あー。…あー、びっくりした。後から入ってきた二人が、物珍しげに店内を眺めている。そうよね。あんまり縁はないよね。こういう、パーツ屋さんみたいなとこって。

「…あんたらだけで来たのかい」
「え?あ、はい」
「ちゃっちゃと見て、灯りが点く前に帰んな」

…はあ。そんなに、裏通りではなかったと思ったんだけど。物騒な感じ?灯りが点くのっていつ?



***

「…おい、イズルは?」
「リリーとベイと出掛けたよい」
「あァ?」
「あいつらはわかってる。それに、ベイがいれば平気だろい」
「ふざけんな!女三人なんざ、格好の的じゃねェか!」
「あっ、イゾウ隊長!」
「…一応、ロハンに追わせてるんだがねい」
「イズに教えてないんすかね」
「何も教えたくねェんだろい。こういう、裏っ側は特に」




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