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何故か、わたしのところに運ばれてきたのはジュースだった。別にいいんだけどさ。別にいいんだけど、既視感。また女児だと思われている。

今までに訪れた島の話とか、戦った相手とか、ベイさんが船にいた頃の話とか。昔のマルコさんとか、イゾウさんとか。たぶん本人がいるのをわかってて話している。ワノ国、なんて。いつか行ってみたいなあ。イゾウさんの故郷。

「うわっ、えっ、何、」

いきなり背後から回ってきた腕に振り返る。イゾウさん?いや、イゾウさんじゃなかったらびっくりだけど。はっきり言って、酒くさい。どんだけ飲んだの。

「飲み過ぎじゃないですか」
「うるせェな」

…あっそう。じゃあ、黙りますよ。カウンターを振り返ったら、マルコさんがしれっと飲んでいた。飲ませたのあんたか。最後まで面倒見ろや。

「イゾウって絡み酒だっけ?」
「イズにだけよ」
「は?あんたこんな小さい子に手を出したのかい」
「イズルは小さくねェよ」
「あ、はい。22です」
「に、…人は見かけによらないもんだね」
「よく言われます」
「イズル」

頬でちゅ、と音がした。冗談でしょ。勘弁してよ。こんな、外で、人目いっぱいで、初対面の人までいるところで。

「おれの話が聞きたきゃ、おれに聞けよ」
「…」
「イズル」
「…」
「イゾウがうるさいなんて言ったからじゃないの?」
「あァ、悪かった。こっち向いてくれ」

髪を梳く手に、横目でイゾウさんに向く。何だこの人どうした。面倒くさいな。何に、どこに、いつから。いや、そもそも店に来る前から機嫌は良くなかったな。

「何ですか。どうしたんですか」
「何でもねェよ」
「何でもなくないでしょうよ」
「…また面倒くさい酒だね」

それな。する、と輪郭をなぞった指に力が入った。あ、と思った時には横を向かされて、一瞬で距離を詰められる。苦い。酒の、度数の高い酒の味がする。

「んん!」
「…ん、」
「ちょっと!怒りますよ!」
「イズルに怒られんなら悪くねェな」
「何か思うところがあるならちゃんと言葉で言ってください」
「…言わねェ」

はあああ?なん、何、思うところあるんじゃん。何でもなくないじゃん。言う言わないはご自由にで結構ですけど、それなら察して欲し気にするな。そんな能力は、わたしにはない!

「独占欲の強い男は嫌われるよ?」
「別に普通だろ」
「昨日散々一緒にいたんでしょう?」
「そういう問題じゃねェ」

はあ…?え、何。わたしが二人と喋ってるから寂しかったとか、そんな感じ?そういう人ではないと思ってたんだけど、そうでもないの?一緒に女子会する?

「ちょっと出てくる」
「はあ、行ってらっしゃい」
「こっちは随分淡白だね」
「足して二で割ったら丁度いいのよ」
「ふうん…なるほどねえ。そういうことかい」
「何がですか?」
「ふふ、イズルは知らなくていいよ」
「それは、…面白くないです」

子供扱いされてるみたいで。ジュースで舌を誤魔化していたら、ベイさんがけらけら笑った。笑い事じゃあないんだよ。きっと、後から気づいて後悔することだったりしない?

「いいんだよ。知らなくて。今は知らない方がいい」
「リリーさん」
「ベイが言わないことを、わたしが言うわけないでしょう?」

…あー、四面楚歌。いいよ、自分で考えるから。



***

「イゾウ隊長が酔うなんて珍しいな」
「流石にあんだけ飲みゃァ、蟒蛇様も酔うだろ」
「…隊長は酔ってねェと思うぞ」
「はあ?だって、お前、今の見てねェのか?」
「泥酔じゃねェが、多少は回ってんだろ?」
「いや、イゾウ隊長はこんな量じゃ酔わねェ」
「こんな量って、…待てよ。なら、今のは、」
「精々、酔ったふりだろうねい」
「酔ったふりと言うか、イズにはいつもあんなんですけどね」
「…言われてみりゃそうだな」




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