156 |
何故か、わたしのところに運ばれてきたのはジュースだった。別にいいんだけどさ。別にいいんだけど、既視感。また女児だと思われている。 今までに訪れた島の話とか、戦った相手とか、ベイさんが船にいた頃の話とか。昔のマルコさんとか、イゾウさんとか。たぶん本人がいるのをわかってて話している。ワノ国、なんて。いつか行ってみたいなあ。イゾウさんの故郷。 「うわっ、えっ、何、」 いきなり背後から回ってきた腕に振り返る。イゾウさん?いや、イゾウさんじゃなかったらびっくりだけど。はっきり言って、酒くさい。どんだけ飲んだの。 「飲み過ぎじゃないですか」 「うるせェな」 …あっそう。じゃあ、黙りますよ。カウンターを振り返ったら、マルコさんがしれっと飲んでいた。飲ませたのあんたか。最後まで面倒見ろや。 「イゾウって絡み酒だっけ?」 「イズにだけよ」 「は?あんたこんな小さい子に手を出したのかい」 「イズルは小さくねェよ」 「あ、はい。22です」 「に、…人は見かけによらないもんだね」 「よく言われます」 「イズル」 頬でちゅ、と音がした。冗談でしょ。勘弁してよ。こんな、外で、人目いっぱいで、初対面の人までいるところで。 「おれの話が聞きたきゃ、おれに聞けよ」 「…」 「イズル」 「…」 「イゾウがうるさいなんて言ったからじゃないの?」 「あァ、悪かった。こっち向いてくれ」 髪を梳く手に、横目でイゾウさんに向く。何だこの人どうした。面倒くさいな。何に、どこに、いつから。いや、そもそも店に来る前から機嫌は良くなかったな。 「何ですか。どうしたんですか」 「何でもねェよ」 「何でもなくないでしょうよ」 「…また面倒くさい酒だね」 それな。する、と輪郭をなぞった指に力が入った。あ、と思った時には横を向かされて、一瞬で距離を詰められる。苦い。酒の、度数の高い酒の味がする。 「んん!」 「…ん、」 「ちょっと!怒りますよ!」 「イズルに怒られんなら悪くねェな」 「何か思うところがあるならちゃんと言葉で言ってください」 「…言わねェ」 はあああ?なん、何、思うところあるんじゃん。何でもなくないじゃん。言う言わないはご自由にで結構ですけど、それなら察して欲し気にするな。そんな能力は、わたしにはない! 「独占欲の強い男は嫌われるよ?」 「別に普通だろ」 「昨日散々一緒にいたんでしょう?」 「そういう問題じゃねェ」 はあ…?え、何。わたしが二人と喋ってるから寂しかったとか、そんな感じ?そういう人ではないと思ってたんだけど、そうでもないの?一緒に女子会する? 「ちょっと出てくる」 「はあ、行ってらっしゃい」 「こっちは随分淡白だね」 「足して二で割ったら丁度いいのよ」 「ふうん…なるほどねえ。そういうことかい」 「何がですか?」 「ふふ、イズルは知らなくていいよ」 「それは、…面白くないです」 子供扱いされてるみたいで。ジュースで舌を誤魔化していたら、ベイさんがけらけら笑った。笑い事じゃあないんだよ。きっと、後から気づいて後悔することだったりしない? 「いいんだよ。知らなくて。今は知らない方がいい」 「リリーさん」 「ベイが言わないことを、わたしが言うわけないでしょう?」 …あー、四面楚歌。いいよ、自分で考えるから。 *** 「イゾウ隊長が酔うなんて珍しいな」 「流石にあんだけ飲みゃァ、蟒蛇様も酔うだろ」 「…隊長は酔ってねェと思うぞ」 「はあ?だって、お前、今の見てねェのか?」 「泥酔じゃねェが、多少は回ってんだろ?」 「いや、イゾウ隊長はこんな量じゃ酔わねェ」 「こんな量って、…待てよ。なら、今のは、」 「精々、酔ったふりだろうねい」 「酔ったふりと言うか、イズにはいつもあんなんですけどね」 「…言われてみりゃそうだな」 |
prev / next 戻る |