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強風、というより、暴風に晒されて、何にもない島。の、その地下。外より土の中の方が温かいというのがよくわかる。外に合わせて着込んでたら暑いくらい。

「すごい。蟻みたい」
「…せめて土竜にしてやってくれ」
「あ、いや、誉め言葉ですよ」
「わかってる」

そう言ってイゾウさんが苦笑う。そっか。虫は駄目か。土竜も大して変わらんけどな。

氷の天井から薄明かりが差して、中は結構明るい。土壁の、建物でいいんだろうか。と、並んだ露店。何だか、妙に久しぶりな気がする。この前が無人島で、その前はマチの島で。…もしかして、あの桜の島以来では?

「…イズル?」
「久しぶりだなあ、と思って。こういう風に、町歩くの」
「この前は歩いてねェからな」

…そーですね。そうじゃなくて。握った手が握り返されて、自分からしたくせに恥ずかしい。この前の島は指輪しか見てないから、こういう、散策みたいな。町歩きが久しぶりだって言ってんの。

「辛くなったら言えよ?」
「大丈夫ですってば。何日経ってると思って」
「イズルの大丈夫は信用ならねェ」
「それ、皆言いますけど。大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないって言いますからね」
「へェ」

おい、こら。何だその空返事。そんなに信用ないですか。痛い時は痛いって言うよ、ちゃんと。

「我慢すれば大丈夫は大丈夫じゃねェからな」
「別にそんなに我慢してません」
「そんなにってことは、多少はしてんのか」
「いや、だからしてませんて。痛くも痒くも何ともないです」
「本当だろうな」

疑り深いなあ。というか、大丈夫じゃないって言ったらどうすんのさ。また抱えられてなんて嫌だよ。そっちの方が嫌だよ。

「イゾウさんこそ、意外と我慢しがちじゃないですか」
「…あ?」
「あれが嫌とか、どれが嫌とか。どうして欲しいとか?わたしにあんまり言わないようにしてるっ、て」
「よくわかってんじゃねェか」

手を解いて、腰に回った腕。イゾウさんと触れてる場所が熱い。溶けそう。くっつきそうな額と、覗き込む目にゆっくり息を吐く。何をされてるわけでもないのに、ぞくぞくする。

「我慢しなくていいんならしねェけどな?」

あ、無理。どきどきして死にそう。ちゅ、と唇が触れて、圧迫感が溶けた。何もなかったように、手を繋ぎ直して歩く。それに引っ張られて、辛うじて足を動かした。何だあれ。何だこれ。顔が熱い。

「イズル」
「…何ですか」
「そんな警戒すんな。何か食うか?」
「…食べる」

絡まった指にどきどきする。無理。やっぱ痛いかも。どきどきし過ぎて痛い。何さ。わたしばっかり。



***

「イゾウ隊長は一緒じゃないんですか?」
「ああ。…まァ、元々一人で動く人だしな」
「今は大体イズと一緒だが」
「そろそろくっついてくれ。頼む」
「…?あの二人付き合ってるんじゃないんですか?」
「あァ、いや、そういうくっつくじゃなくてだな…」
「いずれはぶち当たる壁だよ」
「イズが相手じゃァな」
「何の話ですか?」
「…お前はそのままでいてくれ」
「無理だろ。寧ろこのままだったらやべェぞ」




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