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春は桜、夏は海、食欲の秋を経て冬。四季の移ろいはこんなにも美しくて楽しい。まあ、ここじゃあ順番なんかしっちゃかめっちゃかだけど。

「平気か?」
「暑いよかましですかね」

言うてめちゃめちゃ寒いけど。イゾウさんが笑ってわたしの頭を撫でる。言ったら、冬は雪の筈だったんだ。この島が凍ってさえいなければ。おこたでも良かったかなあ。

初日は留守番が定番だけど、今回は上陸許可が出た。曰く、船の方が危ないから。うん。たぶん、凍死する。風が強い上に寒い。というか冷たい。船の中にいても息が白い。そりゃあ冬島で暖かかったらびっくりだけど。それにしたって寒い。氷点下二桁幾つ?

「エースさんが欲しくなりますね」
「あ?何で」
「湯たんぽ」
「…おれじゃ不満か?」
「イゾウさん体温低いから」

正確には、エースさんが異常に高いとも言う。あの、能力のせいもあるんだろうけど。まさか半裸で走り回ってないだろうな。幾らなんでも風邪引くぞ。

「別に言ってみただけじゃないですか。そんな顰めっ面しないでください」
「何も言ってねェだろ」
「顔に書いてあります」

そんな不満げに、なると思ったけど。些か愉快な気持ちで縄梯子を下りて、近くの流氷に着地した。船から島までは少し遠い。ひしめく流氷のせいで小舟でも渡れない。下手したら海に落ちるなあ。兄さんも何人か落ちてた。それでも叫びながら上陸してったけど。

「ふふ、これ落ちたら死にますね」
「笑い事じゃねェ」
「大丈夫です。たぶん」
「そのたぶんが怖ェんだよ…」

抱えてくという、イゾウさんの案は却下した。だって、こんな楽しそうなこと。そんで、わたしにもできそうなこと。



***

「うおおおお、冷てェ!と言うか痛ェ!」
「馬鹿こっち来んな!氷が傾く!」
「こりゃ青キジも真っ青だな」
「青キジだけにか」
「やめろ!違ェよ!おれが滑ったみたいになんだろ!」
「これ以上寒くすんな!」
「何でもいいが速く渡ろうぜ。流される」




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