12


しんみりパートは終わりかって?終わらないよ!何でついて来るのさ。何で、態々食堂に連れ込むんですかー!

「おろしてください」
「ちょっと待ちな」
「…おろせ」
「あァ、そっちが素か?」

うるさい。降ろせったら降ろせ。食堂なんかに用はないんだ。

「大人しく座ってんなら降ろしてやるぞ?」
「…わかりました」

ゆっくり床に足がついて、イゾウさんが奥に入って行く。…なんて、本当に大人しくしてると思ったか!

「お前なァ…」

あっさり捕まった。扉に手をかける前に捕まった。びっくりしたわ。

「酔いが回ってんのに走るんじゃねェよ」
「別に回ってません」
「真っ直ぐ歩けもしないくせによく言えるな」

うるさい。歩けなくないわ。今から平均台に上ったっていい。何この人めっちゃ性格悪いな?そっとしといてくれよ、もう。

「リリーにも言われたろ?いっぱい甘えていいってよ」
「それとこれとは別です」
「…今ならオヤジも見てねェぞ?」

何だそれ。何それ、ずるい。縦抱きにされて、歩く振動にまた涙腺が緩む。赤ちゃんじゃないんだぞ。馬鹿にすんな。

「やめてください。泣きたくないんです」
「何言ってんだ。泣ける時に泣いとけ」
「だから嫌なんですってば」

そう絞り出した声がくぐもった。額をイゾウさんの肩に押し付けて、握りしめてしまった着物はたぶん皺になっている。けどまあ、わたし悪くないけどな!

「イズルは色々と我慢しそうだからな」

とぷとぷ、と水音がした。ぎ、と椅子を引く音がして、振動が止む。何を知った風に。大した付き合いしてないし。何ならロハンさんとの方が付き合いは長いし。

「別に、我慢してるとかじゃなくて泣きません」
「さっき我慢させちまったろ?その分甘やかしてやるよ」
「いりませんってば」
「そう言うな。兄貴が甘やかしてやりたいんだよ」

ずるい。ずるいずるいずるい。どうせわたしは口だけで、いらないと言いながらこの手を離せない。充分、過ぎるほどに、いっぱい甘やかされている。

「イズル」

ぎゅうっという圧迫感と、酷く優しい声。わかってやってんだろ、この遊び人。

「泣いてもいいぞ。今なら誰も見てねェ」
「…うそつき」

あんたが見てるじゃんか。



***

「リリー、ちょっといいか?」
「あら、イゾウ隊長。イズの具合はどう?」
「…見てたのか」
「勿論よ。あれだけ隊長がいていきなり泣かせるなんて、一体どういう了見かしら?」
「返す言葉もねェ」
「それで?あなたが抱えてるうちの子はどうしたの?」
「寝ちまったんだよ。部屋開けてくれ」
「…ふふふ、折角の色男も形無しね?」
「放っとけ」
「いいわ。そのまま貰うから。イズ一人くらいなら大丈夫よ」
「悪ィな。任せた」
「…二日酔いにならないといいけど」




prev / next

戻る