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隊長連中、と言っていただけあって、いっぱいいた。その恐れ多い輪の中に、膝を立てて座っている。はっきり言って、覚えられる自信はない。殆ど見かけたことのない人もいたし、そもそも人の顔と名前を覚えるのが得意じゃない。

「なあなあ、酌に金取るって本当か?」
「え?あ、はい。取ってましたね」

誰だっけ…コウヨウ…?違うラクヨウさん。酌に金取るって、その言い方じゃ守銭奴みたいじゃないか。

「面白ェなァ。何でだ?別に減るもんじゃねェだろ?」
「私の時間と愛想が減ります」

うん。この人苦手。第一印象って大事よね。じゃあ、あんたが酌したらいいじゃん。愛想振りまいて相手の機嫌を窺ってみろ。

「全てのものは有限なんですよ。物だけじゃなくて、愛想も愛嬌も、思いやりも愛情も憎悪も、全部有限なんです」

誰彼構わず振り撒けるほど、余裕はないんですよ。とは言わず、空のグラスに自分で酒を注ぐ。グラスに注げば、瓶は空になる。その瓶にどこかから注いでこなくちゃ、瓶は空のままだ。…こんな面白くない話聞きたい?

「でもオヤジはおれたち全員愛してくれてるぞ」
「沢山あることと、無限にあることは別物ですよ」

わたしが父さんと同じだけ持ってるわけなかろう。もし、もしもわたしがそんなに持ってたら。もっと彼方が恋しかったかもしれないけど。

「んー、でもよ、」
「やめとけ、ラクヨウ。飲み過ぎだ」

まだ何か言いかけたラクヨウさんを、…えーっと、狐…フォッサさんが止めた。そのまま場所を移動してくれる。ありがたい。それから、申し訳ない。別に自分の意見を並べ立てるのは簡単だけど、ここはそういう場所じゃない。のに、つい苛っとして、口が滑った。酒が入ってるのが極めつけ。失敗した。

「…ごめんなさい」
「こんだけいりゃァ意見が合わないこともあるさ」
「別にラクヨウさんが嫌いとそういうんじゃないんですけど」
「あいつはそんなこと気にする玉じゃねェよ」
「…別に、今ならお金なんか取りませんよ。客じゃないんだから。兄さんたちが喜ぶんなら、わたしだって酌くらいしますよ」

抱えた膝に顎を乗せて、目を見開いて、斜め下の宙を睨む。泣くもんか。泣いて堪るか。そんなの絶対嫌だから、頭を撫でるな誰だ!

「イズル、大丈夫だ」

あああ、もう。瞬きした瞬間、睫から落ちたのがわかった。そんなのを見られたくなくて俯けば、肩をぎゅっと抱き寄せられる。だから誰だよ。泣かすなよ。

一つ、深く息を吸って、二つ吐く。大丈夫。大丈夫。もう落ちてこない。
グラスいっぱいの酒を一息で飲み干して、目を細めて口角を上げた。

「ごめんなさい。今日は部屋に戻ります」
「あァ、ゆっくり休めよい」
「一人で大丈夫か?」
「だいじょぶ」
「おれが送る」
「ちょっと、手ェ出さないでよ」
「馬鹿言うな」
「大丈夫ですってば」
「可愛い妹に手ェ出しやしねェよ」
「うるさい。そういう話じゃない」

最後ので、少し酔いが回った。まだ歩けるから大丈夫。ちょっと足元は揺れるけど、

「大丈夫じゃねェだろ」

ゆらゆらしていた地面が、ふっと遠退いた。おい待て。何でついてきた。ストーカーかこの野郎。



***

「あーあ、オヤジに泣かすなって言われたばっかりなのに…」
「最後結構飲んでったぞ。本当に大丈夫か?」
「まァ、イゾウがいんなら問題ねェだろ」
「おれあんなに甘やかすイゾウ初めて見た」
「見た目よりも繊細だったねい」
「見た目よりは余計だろう」




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