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流石に半分も飲めない。いや、そんなのわかってたんだけど。それでも随分飲んだ方だ。ふわふわぽやぽやする。

「船長!飲み過ぎです!」
「半分はイズルだ」
「飲ませ過ぎです!」

だから半分も飲んでないよって。ちょっと暑い。そして眠たい。

「病み上がりにこんなに飲んで…今までで一番飲んだんじゃない?」
「ふふ、そうかも。たまにはいいかなって」
「偶にはいいけど、今じゃないわ」

頬を包む手が冷たくて気持ちいい。何かぎゅ、ってしたい。わたしがしたい。

「えるみーさん」
「なあに?」
「いつも、ありがと」

ぎゅ、と抱きついた背中に手が回る。嬉しいなあ。生きてて良かった。

「わたしたちこそ、イズがいてくれて嬉しいわ」
「ん」

嬉しい。すごく嬉しい。嬉しいが嬉しいになってぽこぽこ増えてくような。何だろう。ポップコーンみたい。

「ほら、お迎えよ?」

背中をとんとんと叩かれて、名残惜しいまま腕を解いた。振り返れば、いつも通り。当たり前のようにイゾウさんがいて、苦笑いで立っている。嬉しいね。何か知らないけど嬉しいね。

「あっ、馬鹿!」

父さんの膝からひょい、と飛び下りて、ぺたん、と脚が崩れた。酔うってすごいね。こんなに力が入らない。

「随分飲んだな」
「…たのしかったから?」
「だからって、酔った足で飛び下りんじゃねェよ」

腕を伸ばしてきたイゾウさんの手を掴んで立ち上がる。たぶん、抱えるつもりだったんだろうけど、そうはいかない。今はその気分じゃない。
「…っ、イズル?」

少し酔いが醒めてきた。その分少し恥ずかしくて、まあいっかと思うくらいには残ってる。こんな腕には収まりきらないのが悔しい。

「たすけてくれて、ありがと」
「…いや、」
「わたしがおれいいってるんだから、すなおにうけとってればいいんですよ」

背中に回った腕が、音のしそうな勢いで締め付ける。ぎゅう、とかじゃない。みし、の方。肩に埋められた顔が擽ったくて、ついつい笑みが溢れる。嬉しい。嬉しいねえ。

「何回だって助けてやるよ」
「よろしくおねがいします」
「…次は素面でやってくれ」
「やらない」

リリーさんと、リタさんと、他の姉さんたちと。抱き締めて、抱き締められて。偶には酔うのも悪くない。理性にも休暇をあげなくちゃね。



***

「いいもんやったらしいじゃねェか」
「まだそこまでのもんでもねェけどな」
「あら、イズは嬉しそうだったわよ?」
「イゾウにも選んでもらったって」
「お風呂の時以外ずっとつけてるわ」
「寝る前に眺めてたりするわよ。本人はばれてないつもりでしょうけど」
「グララララ、仲睦まじくて結構じゃねェか」
「…勘弁してくれ」




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