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意外と、人が出ている。元々雨が多いらしいから、ここの人たちにとっては雨が日常なんだろう。別にそれはいい。素敵。只、ちょっと視線が痛いだけ。

「何でそんな平気なんですか。慣れてるからですかそうですか」
「一人で会話すんな」
「じゃあ、何でですか?」
「イズルのことしか考えてねェからな」

…馬鹿じゃないの。この、馬鹿じゃないの!よくもまあ、公道公衆のいるところでそんな…馬鹿じゃないの!

「…今更ですが重くないですか」
「ふ、今更だな?」
「別に歩けないわけじゃないんで下ろしてもらって大丈夫です」

そもそも皆が過保護なんだわ。こんだけ喋れたら、もう元気でしょうよ。走り回ったりなんかしないんだからさ。

「体重落ちただろ」
「はい?」
「前より軽い」
「いや、量ってないんでわかんないですけど」
「食う量は減ってる」
「そりゃ、運動してなきゃ食べる量も減るのでは?」

ていうか、何でイゾウさんがわたしの体重把握してんのさ。怖いんだけど。ああ、でも、服のサイズとかも当てられたか。何で計ってるんだろう。

「これ以上体重落としたら無理矢理食わせるからな」
「そんなんされたら吐きますよ…」

そして更に体重落ちるぞ。たぶん。

イゾウさんが足を止めて、傘を畳んだ。どの家、建物にも、傘を畳むための庇がある。どこの島でもそうだけど、島の環境が反映されてて面白い。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

そう言って扉を開けた初老の男性は、にこやかな笑みを浮かべて腰を折った。そう広くはない店内に並ぶガラスケースは、…宝石店みたいな。

「…あの、何事かお伺いしても?」
「別に何事でもねェよ。前々から考えてはいたしな」

何を、とまで聞くのは流石に野暮だろう。でも、あの、…まじで?わたしは何の、心の準備すらできてないんだけど。

「おれが選んでも良かったんだが、嫌か?」
「いや、あの、嫌とかじゃなくて…その、もうちょっと…何か、事前に教えてくれたりとかないんですか?」
「そしたらサプライズにならねェだろ」

何を、そんな、さも当たり前のように。お店の人は、相変わらずにこにこと控えている。紳士。こんな奇妙な客もそうそういなかろうに。

「…あの、わたしこういうの考えたことないんで、選び方とかわかんないんですけど」
「イズルが好きなやつ選びな。別に今日ここで決めなくてもいい。あんまり決めないようなら、おれが選ぶけどな?」

ええ…それはそれで良いのでは?自分で選ぶの好きだけど。イゾウさんに選んでもらえたら、それはそれで嬉しい。



***

「一体、イゾウは何の用事でイズを連れ出してるの?」
「さァな。わしにも言わなかった」
「聞いてないのに許可を出したの!?」
「あんまり缶詰めじゃあ、イズも参るだろ。もう数日もしたら、また海の上だしな」
「それは、そうだけど…」
「歩かせないと約束したから、悪化はしないさ。イズの完治が遅れるのは、イゾウにとっても嬉しくないだろ」




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