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「随分と楽しそうだな」

空瓶が転がる中、わたし以外は死屍累々。そこにイゾウさんがふらっとやってきた。

「楽しいですよ。こんなに笑ったの久しぶりです」
「オヤジにも注いでやんな。喜ぶ」
「あ、そっか」

言われて気づいた。そうね。最初にそうすればよかった。

その辺にあった、まだ中身のある瓶を二、三本持って立ち上がる。と、イゾウさんが首を傾げた。何?何かあった?

「飲んでたんじゃねェのか?」
「飲んでましたけど、少しだけですよ。注ぐ側から空けてくから、こんな感じですけど」

何を考えていたやら、わたしが飲む暇もなくずっと注いでた。何かの時の為に覚えておこう。潰す為には酒を注げ。

「一応訊いたんですけどね。ペース早くないかって」
「放っとけ。自業自得だ」
「ふふ、それ、わたしが好きな言葉です」

屍を跨いで、人でごった返す中を縫っていく。時々酌を求める声を、父さんが先と断りながら漸く辿り着いた。距離的には大したことないんだけど、思いの外遠かった。

「どうしたァ?」
「イゾウさんが、父さんにも注いでやれって。…リリーさんたちの、許可があれば?」

傍で飲んでいたリリーさんたちに視線を送ると、親指と人差し指で丸を作ってにっこり微笑む。そんな仕草もきれいです。

「グララララ、嬉しいじゃねェか」
「喜んでもらえるなら何より」

低くしてくれた杯に、持ってた瓶の中身を全部入れた。後ろから、イゾウさんがグラスを渡してくれる。忘れてた。ありがとうございます。

「よろしくお願いします?」
「あァ、歓迎するぜ」

父さんと、イゾウさんと、リリーさん以外のナースさんたちともグラスを合わせて。嬉しい。楽しい。大好き?

「イズ、こっちで一緒に飲まない?」
「えー、お邪魔してもいいんですか?」
「何言ってるの、大歓迎よ。イゾウもどう?」
「姉さん方の誘いは断れねェなァ」

姉さん…そっか。姉さんになるのか。ふふ、そっか。

「なあに?一人で笑っちゃって」
「…いや、そんな大層なことじゃないんですけど、リリーさんもリタさんもエルミーさんも、わたしの姉さんになるのかなって思ったら、…嬉しくて?」
「あら、可愛いこと言っちゃって。いっぱい甘えていいわよ」
「既に大分甘えさせてもらってますけどねー」
「わたしたちも弟の方が多いから、妹大歓迎よ」
「ふふ、ありがとうございます」

リリーさんが抱き締めてくれて、リタさんが頭を撫でてくれる。エルミーさんなんか、額にちゅーしてくれて。死ぬぞ。わたしが。

暫くそうやって飲んでいた。目の前のイゾウさんが早いから呑まれないように。…この前も思ったけど、えらい早いな。何で酔わないんだ。

「おい、イゾウ」
「あ?」
「イズル呼んで来いって言ったの忘れたのかよい」
「忘れちゃいねェが、イズルが楽しい方が優先だろ?」
「…?何かありました?」

少し回ってるけど、まだ大丈夫。潰れるまで飲みやしないけど、眠たくなる。から、何かあるなら早いうちがいい。

「隊長連中を紹介しておこうかと思ったんだが、平気かよい?」
「まだ大丈夫ですよー」
「イズは飲むの上手ね。目の前でイゾウが飲んでるのに」
「他のクルーにも見習わせたいわ。宴会の度に医務室に来られちゃ困るもの」
「褒めても何にも出ませんよー」

グラスを手に、ゆっくり立ち上がる。うん。大丈夫。外だし。風もあるし。

「抱えてやろうか」
「残念ながら大丈夫でーす。…また一緒してもいいですか?」
「ええ、また一緒に飲みましょ。今度は女子だけで」

そう言って、リタさんがウインクをくれた。もっかいやって。



***

「いいなあ、イゾウのやつ。ナース連中に囲まれてよォ」
「ラクヨウが行ったら追い出されるもんな」
「おい!聞き捨てならねェぞ!」
「でも否定はできないよねえ?」
「つーか役得だよなァ…イズ呼びに行って、オヤジとも飲んでんだろ?」
「おれもオヤジと飲みてェな…」
「はいはい、後にしてね」
「あ、戻ってきた。ナミュール起こせ」




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