09


斯々然々で、またこの船にお世話になることになったんですけど大丈夫ですか?…という感じのお伺いを立てたら、船長さんは少し眉を寄せた。やっぱ駄目?今更駄目って言われても困るんだけど。

「お前ェ、故郷に帰りたくはねェのか?」
「ああ…まあ、別に帰りたくはないですね。此方の方が面白いです」
「…グララララ。此方の方が面白ェか」

船長さんには改めてちゃんと話した。安全で、何不自由ない、わたしの小さな世界の話。もしかしたら、それはこの世界の人たちが渇望するものなのかもしれない。

「無い物ねだりなんです。普通じゃ手に入らないものを追っかけてる方が楽しい」
「そうか…」

手に入ったものに興味はない。…とまでは言わないけど。いつまでも眺めてたら飽きてしまう。だからバイトも続かないんだな。

相変わらず静かな目が、ゆっくり細められた。伸ばされた手を、わけもわからず握ってみる。小人にでもなった気分だ。

「なら、お前ェは今日からおれの娘だ。好きなように生きてみろ」
「ありがとうございます。…父さん?」
「…悪くねェ」

その、にやりと笑った相槌に、そこら中から雄叫びが上がった。うるさいよ。いきなり大声出さないでってば。

「お前ェらァ、新しい妹だ!泣かすんじゃねェぞ!」
「「うおおおおおおお!」」
「うるっさ、いや、そう簡単に泣きませんよ!」

其処此処から、よろしくだの何だのと聞こえる。ゾノお帰り、なんてのも混じってた。嬉しいね。ついつい顔が笑う。

「お前酒飲めんのかよ?」
「ちゃんと成人してますから合法でーす」
「本当に22なのか…」
「そんなに何度も確認します?」

いつまでその話してんのさ。聞き飽きたわ。

「イズ−、兄ちゃんに酌してくれよ」
「高いですよ?」
「何だよ、やっぱり駄目かよ」

そうやって不貞たようにジョッキを開けた兄に、傾けた瓶を差し出す。この辺だけ、少し静かになった。

「えっ、まじ?」
「まあ、いつでも請求できますし」
「うえー、お前怖ェよ!幾ら請求する気だよ!」
「さあ、どうでしょう」

ジョッキに注ぐと、周りが揃って空けだした。何。酌って何か特別な意味でもあるの?

「俺たちも注いでやろうか!」
「結構です。お酒は手酌が一番美味しいので」
「何だ、そりゃ」
「おれはきれいな姉ちゃんに注いで貰った酒が一番美味ェなァ…」
「じゃあ、妹のは要りませんねー」
「あっ、嘘嘘!イズの酒が一番美味い!」

あは、可笑しい。楽しい。言いたいこと言って、やりたいことやってる。



***

「あれ、イズ一人だぞ」
「ん?何だ、あいつら潰れちまったのか」
「だからって一人で飲んでるイズもすげェけどな」
「丁度いい。隊長連中集めろい」
「イズも呼ぶか?」
「それはもうイゾウが行ったな」
「じゃあ、ハルタたち探してくる!」
「おいこらエース!走るんじゃねェよい!」




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