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こんな何十人分の止血なんか、終わるわけがない。その前に、追加の海兵がやって来た。わんこそばかよ。お代わりなんかいらない。 「何をしている!」 「応急処置です。元気なら手伝ってください」 「ふざけたことを、」 「やめ、ろ…」 わたしに銃口を突きつけて、今にも引き金を引きそうな海兵を止めたのは腕の下にいる海兵。意識戻ったの。じゃあ、自分で押さえて。 「…しかし、」 「こいつの言っていることは…嘘じゃ、ない。負傷者の、救護を優先しろ」 「はっ」 流石軍隊。上から下への指示は絶対。うちじゃあり得ない。まず、わたしが言うことを聞いてない。 「そんだけ喋れるんなら自分で押さえてください」 「あんた…海賊じゃないのか…?」 「あなた方が何をもって海賊と定義してるのかは知りませんけど、海賊が海軍を助けちゃいけないなんて聞いてませんから」 「…こんなことをしても、おれたちは、…あんたらを捕まえに行くぞ」 「ご自由にどうぞ。そんな暇があるなら、島の安全を優先してください」 もういらない。わたしなんかより、海兵たちの方が余っ程手慣れてる。きっと姉さんたちなら、誰が重傷か、優先度を見極めて動けた。けど、わたしはそんな判別できない。そもそも、人命救助なんて人道的な動機じゃないし。 「全く、うちの末っ子たちは好き放題してくれるぜ」 「人命救助だよ。褒めてくれてもいいんじゃない?」 「敵を助けてどうすんだよ」 仰る通り。船に帰る自信がなくて、余計なことをしただけだ。どうしよう。本格的に帰れないかもしれない。 「ま、お陰で見逃してくれるらしいけどな?」 …何の話?わたしの頭に手を置いたサッチさんの視線の先に、割りと満身創痍なダンデさんがいる。見逃してくれるというか、見逃してあげるような雰囲気が否めませんが。 「馬鹿にするな。うちに白ひげを相手取るだけの戦力はない。ドフラミンゴめ…」 「そのドフラミンゴはどうしたの?」 「…うるせェな」 「逃げられたってよ。とっとと船に戻ろうぜ」 ひゅ、と心臓が落ちた気がした。本当に、わたしは帰ってもいいんだろうか。仲間を、家族を殺しかけたなんて、正直合わせる顔がない。挙げ句に海軍まで助けちゃって、考えなしにも程がある。 「イズル、帰るぞ」 「…あの、」 「イズルが思うほど大したことじゃねェよ。あいつらの喧嘩見てりゃわかんだろ」 …まあ、骨折も打撲も日常茶飯事だけど。それと一緒じゃなくない?相手が死ぬなんてことは絶対ないじゃん。 「イズル、元気出してよ」 「元気はある。無傷だもん」 「そんなに気に病まないでってば」 「これで気に病まなかったら、わたしは人間以外の何かじゃない?」 イゾウさんが、わたしの頭を撫でる。やめてよ。今、そんな、泣いてる場合じゃないんだよ。 「…、どうしたらいい?」 「何を?」 「ルーカに、どう謝ったらいいかがわからない」 嘘だ。いや、気に病んでるのも、どう謝ったらいいかわからないのも本当だけど。わたしが楽になりたいだけだ。何したって、それこそルーカに殺されかけでもしないと、帳消しになんかできないのに。 「…じゃあさ、おれにもおまじないしてよ」 「はあ…?」 「おまじないだァ?」 「だってさ、おれがイズルに殺されかけたって言うなら、イズルがおれのこの先の無事を願ってくれたら、ちゃらになると思わない?」 「…ここで?」 「ここで」 サッチさんがいて、海軍がいて、イゾウさんがいるここで?まじで?いや、わたしに断る権利なんかないけども。 「…う、動かないでよ」 「うん」 腰を折って屈んだルーカに、少し背伸びをした。嫌、とは言わないけど、躊躇いはある。なるようになれ、と軽く触れるや否や、わたしの頬っぺでちゅ、と音がした。 「何して、」 「おまじない、でしょ?イズルがこの先も笑ってくれますようにって」 「…何そ、れっ、」 それじゃ、謝罪にもお詫びにもならない。わたしばっかり楽になって。そんな文句を言う暇もなく、体が後ろに倒れた。シーソーかって。 「どういうつもりだ?」 「…えっ、と、」 「詳しく教えてくれんだろうな?」 怒るのでは、とか。機嫌悪くなるのでは、とか。何となく予想はしてた。たぶん、ルーカもそれは見越して言ってる。けど。 「…あの、マチに、おまじないって言って、頬っぺにちゅうしたから、」 「そういうこと聞いてんじゃねェよ」 「うわっ、」 乱暴に足が地面から離れた。予想はしてたんだけど、思いの外不機嫌だ。不機嫌というか、結構怒ってらっしゃる感じだ。声が低い。俵担ぎなんて初めて。 *** 「あーあー、イズも馬鹿だな」 「気にしなくていいって言ったのにね」 「お前もわかってやっただろ」 「勿論。欲しいものはどんな手を使っても手に入れろってね」 「随分海賊らしくなったな」 「サッチが教えたんでしょ」 「あんたら…とっとと出てってくれないか」 |
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