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ルーカを剥がして向き直ったわたしに、ダンデさんは目を細めた。知らないよ、中将がどうのなんて。敵わないという意味で、この世界の全てはわたしにとって同列だ。

「幾つか、聞きたいことがあるんです」
「何だ?」
「マチが拐われた時、あなた方は一体何をしてたんですか?」

ダンデさんが、これでもかと眉を寄せた。ずっと、マチの島に海軍支部があるって聞いてから。不思議に思ってた。何で海軍がいる島で、マチが拐われるような事態が起こるの。そんなにぽんこつな集団なの。それとも、裏で手引きとかしてるんじゃないの。

「決して、我々が悪事に加担しているということは、」
「そんなこと聞いてないんです。自分の島の人間一人守れないのに、白ひげの船にいるわたしたちを守れると思っているのかって聞きたいんです」
「…最大限の努力はする」
「その努力が足りなかった時、命だとか、人生だとか、そういうのを失うのが誰か、わかってますか?」
「勿論だ」
「嘘。頭でしかわかってない。当事者じゃないあんたたちは、次があるから。失敗したら、次こそは守るって踏み台にするだけじゃないの?」
「…君、ダンデ中将に対して言葉が過ぎるんじゃ、」
「わたしたちが売り飛ばされそうな時、海軍は助けに来なかった!」

ダンデさんの口が歪んだ。本人の意志がどうとか、そういう問題じゃない。組織ってそういうもん。大きな利益の為にしか動かない。動けない。
だから何。あんたらのせいで、マチがどんな思いしたと思ってるの。

「言葉が過ぎる?敬って欲しかったら、それ相応の働きをしてからにしてください。次同じことがあったら、わたしがマチを拐いに来ますから」
「…つまり、君は海賊だと?」
「そういうことです。保護してもらう必要なんかありません」
「えっ、イズル、ちょっと待って」
「ああ、彼がどうかは彼に聞いてください」
「投げ出さないでよ!」
「…君は、それで後悔しないのか」
「どこで生きるかもどう生きるかも、全部自分で選ぶんです。じゃなきゃ楽しいも嬉しいも寂しいも、全部をわたしのものにできないじゃないですか」

イゾウさんだけじゃない。マルコさんだってサッチさんだってハルタさんだって。他の兄さんや姉さんだって。こんな、可愛げのないままを好いてもらったんだから。どうせ皆といるんなら、胸張ってられる自分でいたい。

「…成る程、確かに海賊らしい」

腰に下げた刀を抜いたダンデさんに身構えたら、腕を強く引かれた。前を走るルーカを、脚を縺れさせながら追いかける。ルーカは、それでいいの。わたしに巻き込まれたんじゃないの。

「いいの!?」
「おれだって、全部イズルのせいにするなんて格好悪いことしないよ!」
「ごめん!」
「いいから足動かして!」

それもごめん!もう目一杯!置いてってもいいよ。後で誰か寄越して、…ちょっと!

「おれ、イズルのそういうとこすごいと思うよ」
「何が?」
「心臓が幾つあっても足りないけどね!」

だから何が?ルーカに横抱きにされて、景色が過ぎ去っていく。確かに、この方が速いけど。速いけどさあ…。

気づけば前から、横から、勿論後ろにはダンデさんが。ルーカが脚を止めて、わたしを下ろした。八方塞がりとはよく言ったもんだ。人がいないのは、既に避難でもさせたんだろう。優秀だね。この先も、あなたがここにいてほしいと思うよ。



***

『作戦Bだ。36番で包囲する』
「…Bってことは、あいつら海賊だったってことか」
「馬鹿にしやがって。ぶっ潰してやる!」
「おい、無駄口叩いてんなよ。相手は白ひげの船に乗ってるんだ。舐めてかかると痛い目見るぞ」
「こっちが痛い目見せてやりますよ…!」
「…第三部隊!これより作戦Bを遂行する!総員、気を引き締めろ!」




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