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あー、泣いた。海兵たちは全部聞いてたんだろう。何とも言えない顔でわたしを眺めていた。見せ物じゃねえぞ、こら。

「お待たせしました」
「…使うか」
「お構いなく」

差し出された白いハンカチを断る。真っ白で、きっちりアイロンのかかったやつ。自分でやってるのか、奥さんか。どっちでもいいけど。

「改めて、海軍G-15支部、基地長のダンデだ。先程も述べた通り、君たちに話を聞きたい。基地まで来てもらえるか?」
「どうも。はじめまして。話ならここでお願いします」
「我々は、君たちに危害を加えるつもりなどない。基地内なら、確実に君たちを守ることができる」
「知らない人についてっちゃいけない、という教えを受けているので」
「…ダンデ中将は、」
「よせ。なら、ここで話そう。君たちのことについては、監視船から報告を受けている」
「は?」

何て言った、今。監視船?何その物騒な船。知らないんだけど。プライバシーも何もあったもんじゃねえな。

「イズル知らないの?白ひげの船には、海軍の船が張りついてるって」
「知らない」
「…やはり、白ひげの船に乗っている民間人とは君たちのことだな」

…?まあ、民間人ですが、何か?どうも話が見えない。海賊を捕らえに来たんなら、もっと殺伐としてる。と、思うんだけど。何その、痛ましげな目。喧嘩売ってる?わたしは今情緒不安定で、沸点がとても低いんだけど。

「我々は、君たちを保護しに来た。もう海賊船に戻る必要はない」
「…?」
「特に、君については不死鳥マルコによる誘拐が目撃されている。見たところ、枷や錠はつけられていないようだが…何か弱味でも握られているのか?」

…?んん?ああ、まあ、確かに誘拐されたけど。つまり、何だ。この人は、わたしたちが海賊に拐われた哀れな被害者だと思ってるのか。弱味って。此方の世界に何の根っこもないわたしたちに。いや、ルーカがどうかなんてわかんないけど。

「すみません。質問いいですか?」
「勿論だ」
「えっと…つまり、わたしがあの船に乗った時から知っていると?」
「ああ」
「その後、今の今まで放置した挙げ句、今更保護しようと?」
「…不甲斐ない話だが、四皇を相手取るなど、我々一海兵の手に余る。今なら君たちを、このまま基地に匿うことができるんだ」
「…ルーカ、ヨンコウって何?」
「グランドライン後半の海にいる、四人の大海賊たちのことだよ」
「…後半てことは前半があるの?」
「あるんだよ!何でそんなに無知なの!?通りで怖いもの知らずなわけだよ!この海がどのくらい危ないか知ってる!?」
「ジョーズみたいなのがいっぱいいるのは知ってる…」
「そうじゃない!」

なに…何でそんな、何でルーカが怒るの。肩を揺すられて首が振られる。だって元々此方の人間じゃないもの。寧ろ何でルーカが知ってるの。

「海軍中将ってそこそこすごいんだよ!?トップクラスなの!そんなの相手に喧嘩腰なんてすごいな、とか思ってたけど、わかってないだけだろ!」
「別に喧嘩腰なわけじゃ、」
「言っとくけど、おれじゃ太刀打ちできないからね!」
「大丈夫。わたしも無理」
「大丈夫じゃない!」

…あの、気は済んだ?首が取れそうなんだけど。



***

「…遅くねェか?」
「マチとの別れを惜しんでんじゃねェの?」
「何か嫌な予感すんだよなァ」
「そりゃ、ルーカがイズを制御できるわけねェもんな」
「誰もできねェだろ。あんなじゃじゃ馬娘」
「イゾウ隊長だって振り回されてんだもんな」




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