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ロハンさんが読み聞かせしている。さっきはリタさんだった。何というか、気に入ってもらえてるみたいで何より。 「珍しいな?」 「そりゃ、…隣で聞いてたら恥ずかしいじゃないですか」 読みづらいだろうしね。隣に座ったイゾウさんが笑う。でも、気持ち的には少し楽なんだよ。毎日新しい話を考えるのもそうだけど、ずっと面倒見てるのって大変。何で教育機関があるのかわかった。 「マルコから聞いたか?」 「何をですか?」 「…聞いてねェのか」 「だから何をですか?」 眉を寄せて、一瞬考える素振りをする。そこまで言ったんなら言ってよ。気になるじゃん。 「マチの故郷が見つかったかもしれねェ話」 「…かもしれない話?」 「今エースが確認しに行ってるってよ」 それは、…それは良かった。嬉しい。嬉しいけど、少し寂しい。そこがマチの故郷であってほしいけど、もうちょっと一緒にもいたい。 「思ったより驚かねェな」 「マルコさんの名前が出たら、何となく予想はつきますよ」 「マチにはまだ言うなよ」 「たぶん、マルコさんはわたしに言うつもりもなかったと思いますけどね」 「…おれが言ったって言うなよ」 「ふふ、はあい」 イゾウさんが口滑らすなんて、珍しいこともあるもんだ。別にマルコさんも隠してたわけじゃないだろうけど。わたしがいっつもマチと一緒にいるから。 「あの、イズさん…」 「はあい」 ロハンさんと一緒に、マチがおずおずやってきた。腕を広げたら、ロハンさんの手をきゅ、と握る。ちょっと傷つくぞ。嫌われることしたっけ。もしかして今の聞いてた? 「…あー、イズ」 ロハンさんが視線だけでイゾウさんを見る。何、別に機嫌悪かったりなんてしな、…い? 「イゾウさん、顔」 「…何だよ」 「そんな顰めっ面してたらマチじゃなくたって怖がられますよ。マチ、大丈夫。おいで」 しゃがんだロハンさんに背中を押されて、マチがわたしの膝の上に乗る。ぎゅう、と抱き締めたら体の力が抜けた。そりゃ怖いわ。流石、美人は迫力が違う。ロハンさんを見習え。 「あのね、ロハンさんがよんでくれたの」 「ふふ、良かったね。何読んでもらったの?」 「これ!おはなのはなし!」 へえ、これ好きなんだ。意外、と言うほど予測なんかしてなかったけど。お母さんのこと思い出しちゃうじゃないかって思ってたから。意外。 「マチ、この話好き?」 「すき!…あのね、でもね、イズさんがよんでくれるのがいちばんすき」 「そうなの?嬉しい」 「ロハンさんにはないしょ」 「うん。内緒ね」 聞こえてるけどな。ロハンさんも苦笑いだわ。わたしは好きよ。ロハンさんの読み聞かせ。不器用そうな感じが素朴で良いと思う。 「ねえ、イズさんよんで?」 「どれがいい?」 「んっとね、これ!」 …ふーん。マチの頭を撫でて、イゾウさんを振り返る。まだ顰めっ面してる。子供苦手か。あんまり意外性はないな。 「イゾウさんもね、この話好きなんだって」 「は?」 「イゾウさんに読んでもらう?」 「おい、イズル」 「マチが嫌だったら、わたしが読んであげる」 「…でも、イゾウさんおこってる」 「マチが可愛くて困ってるだけだから大丈夫」 視線が痛い。けど、怒ってる時はもっと怖い。し、何か、人見知りらしいから。子供なんてそうそう接しないから、余計にどうしていいかわかんないんじゃないの。知らないけど。 「…どれだ」 「イゾウさんの好きなやつだそうですよ」 「あの、おおきいいわのおはなし…」 わたしの服を掴んで、ちょっと泣きそうなマチを抱え直す。ロハンさんはそそくさとどっかに逃げてった。そういうとこだぞ。 「マチ、イゾウさんの膝行く?」 「ぅ…、イズさんがいい…」 「…お前、後で覚えてろよ」 あは。ちょっと調子に乗ってしまった。こんなこと滅多とないから。 「…ある、山に、大きな大きな、」 *** 「何だあれ」 「イズが一番楽しそうだな…?」 「おい、誰かカメラ持ってこいよ」 「は?お前死ぬ気か?」 「だって何か親子みたいだろ。残しておきたいじゃねェか」 |
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