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「…そうして、何にもなかった島はきれいな花でいっぱいになったんだって」

風が少し冷たい。けど、膝の上は温かい。マチを抱いて、いつもの如くのお話会。一日に一つと言って、毎晩頭を悩ませている。こんな数頁にもならないような、お話なんて言えないような話を、毎日のようにマチはせがむ。そして何故だか、話し始めると兄さんたちまで寄ってくる。

「イズさん。おはな、なにいろ?」
「マチは何色がいい?」
「んー、あか!」
「赤かあ。きれいだね」
「おれは白がいい!オヤジの色だ!」
「そんならおれは青だ!おれたちゃァ海賊だからな!海の色だ!」
「馬鹿、青はマルコ隊長の色だぞ」
「…なら、ダイヤモンド色ってのはどうだ?」
「ダイヤモンドは色じゃねェだろ」
「いいんじゃないですか?見てみたい」
「イズさんは?イズさんはなにいろ?」
「わたし?」

喧々囂々の中、マチが真ん丸の目で見上げてくる。…わたしか。

「んー、黒」
「黒ォ?」
「何でだ?」
「色って全部混ぜたら黒くなるんですよ」
「へェ、そうなのか」
「だから全部色」
「…おまっ、お前、それはずるいだろ!」
「知識の勝利です」
「なら、おれは虹色だ!」
「おいおい、二番煎じだぞ」
「ふふ、マチはどうして赤?」
「…あのね、ままのかみのけ、あかいの」

ああ、そっか。ままの髪の毛赤いのか。マチの髪が赤いんだから、そんなこともあるよね。

「会いたいね」
「うん」
「もうちょっとだけごめんね」
「んーん、イズさんのおはなしたのしい」

任せっきりのわたしがどうこう言えることでも、どうこうできることでもない。マルコさんやエースさんが、あっちこっち行ってくれてる。父さんも、傘下の人たちに声をかけてくれた。何にもできなくて歯痒い。けど、わたしが眉を下げるにはいかない。

「じゃあ、今日はもう一個話そうか」
「ほんと?」
「今日だけ特別ね」
「えへへ、とくべつ!うれしい!」
「あるところに、小さな女の子がいてね、…」

寂しい思いさせてごめん。何の役にも立てなくてごめん。こんな小さな話で、ちょっとでも気が紛れるんなら、幾らだって夜更かしできる。



***

「おれは気づいてしまった」
「何だよ、いきなり」
「マチと喋ってるイズってよ、誰かに似てねェか?」
「誰かに、…まァ、言われてみりゃそんな気もするが」
「イズのやつ、イゾウ隊長と同じ顔してんだよ」
「あ?…あー、なるほどな」
「つまり、何だ。あの二人は似た者同士なわけか」




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