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わたしの時もそうだったけど、モビーには世話焼きさんが多い。例えばリリーさん、リタさん、エルミーさんたち姉さん方。でもたぶん、女の子限定。あとロハンさん。あんまり愛想なくて強面だけど、実は子供好き説。隊長さんは日頃から面倒見てるようなもんだし。ゾノさんとかルーカはさりげなく優しい。さりげなくというか、シチューの人参が花型だった。羨ましい。わたしもそれがいい。

今日は土砂降りの雨と、雷。別に苦手じゃないけど、音と光が同時に来るもんだから、時々ちょっとびくっとする。

「イズさん…」
「ん、怖いねえ」

膝に乗せたマチの頭を撫でる。人がいっぱいいる方がいいかと思って食堂に来たけど、あんまり変わらなかったみたい。兄さんたちが微笑ましげに見てるけど、そうじゃないんだわ。気持ちはわかるけど。

「マチ、お話しようか」
「おはなし?」
「雨って何だか知ってる?」
「…おみず」
「そうそう。あの水の中にね、雷様の子供が入ってるの。雨と一緒に落ちてきた雷様の子供はね、色んなものを助けないと空に帰れないんだって」

例えば草花を育て、生き物の住処となり、育み。そうやって大きくなって、いつか空に帰る。空に帰るときに、雷が鳴る。

「あれはね、雷様が家に帰れるのが嬉しくて光ってるんだって」
「ごろごろってするのは?」
「んー、マチは何でだと思う?」
「…えっとねえ、ただいまっていってるんだとおもう」
「ふふ、そうかもしれないね」

一際、強く光った。マチがきゅっとわたしの服を掴む。駄目か。別に怖いのが悪いわけじゃないけど、ずっと怖いのは可哀想だ。リノンに耳栓でも頼んでみようかな。危なくないやつ。

「…かみなりさま、うれしい?」
「んー、めちゃくちゃ嬉しいみたいだね」
「えへへ、よかったねえ」
「やっぱり怖い?」
「びっくりするけど、こわくない」

んなわけあるかい。そんな、こんな作り話で怖くなくなっちゃうの。マチは強いね。

「イズさん、もっとおはなしして?」
「もっと…?」
「うん」

…ええ。まじ?そんなにぱっと思いつかないんだけど。



***

「何だ?今の話」
「おれは聞いたことねェ」
「イズの国の話か?」
「ラノックに聞かせてやれよ。どうせ部屋に籠ってんだろ?」
「雷様が降ってきて…?」
「役に立たねェと帰れねェんだろ?」
「…何か違うな」




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