恋焦がれて見た夢10






あれから数年経った今、あいつは花魁にまでなっている。
客を選べる身になってからは減ったのだろうけど、それまでは客が入れば毎晩のように床入があった。
俺はその当時自分のことで精一杯だったからそのことについて何とも思わなかった。
しかし最近は何だかもやもやする。
逆に数が減ったからか、たまに入るその床入が気になってしまう。
おかげで今日のような鋭い客にはすぐバレてしまうのだ。
止めていた歩みを進める。
部屋に帰ってさっさと寝よう。それが1番いい。
灯りのつかないあの離れを一瞥し立ち去った。


それからしばらくしてまた別の日、俺は臨也のもとを訪れていた。


煙管を吸いながらいつものごとく縁側に座る。
今日は胡坐をかいて座る俺の脚を枕にして臨也は本を読む。
そこに会話はなく、暖かな気候にうとうとしていた。

「美味しい?」

いきなり話しかけられ、一体何のことかと思っていると煙管を指差してきた。
切欠はなんだったか覚えていないが吸うようになっていた。
特別美味しいとは思わないが別に嫌いでもなかった。
ちょうどいい暇つぶしみたいなもん。
だから一言、嫌いじゃないと言っておいた。

「俺は嫌いだよ、苦いもん。」

「そうか。」

そして再び沈黙。
何だか今日はおかしな感じだ。

「外の世界ってどんな感じなんだろう。」

あぁ、やっぱりおかしい。
臨也がそんなことを言うなんて。
外の世界、夜じゃない普通の昼の世界。
そんなもの俺だって覚えちゃいない。
大体俺たちが外に出たところで、生活能力はねぇけどな。
結局俺たちはどこまでいっても誰かがいなければ生きていけないんだ。
外に出たいと思わないの?と尋ねてくるこいつはその意味を知らないはずがない。

「バカなこと聞いてくるんじゃねぇよ。」

「身請けしないと無理だもんね。」

自分の意思で外に行くなんてことはほとんど出来ない。
それを知っているくせに意味のないことを言う。
俺たちの中では外の話は夢物語でしかないのだ。
幸せになれる奴なんてごくわずかで、ほとんどは辛い生活しか待っていない。
目の前にいる臨也も、俺だっていつかは買われてしまうのだ。

「あーぁ、俺がシズちゃん買っちゃおうかなぁ…なんてね。」

そんなことが出来るはずもないのに。
笑って話す臨也に俺も付き合う。
本当ならこんなくだらない、意味のない会話はしないけれど。

「はっ、臨也に買われるくらいなら死んだ方がマシだな。」

「じゃあシズちゃんが俺を買ってよ。何年かかるか知らないけどー。」

そう言われて一瞬考えてしまった。
こいつを買うのにはいったいどれほどかかるのだろうかと。

「うぜぇな。」

そんなことを考えた自分に恥ずかしくなってつい突っぱねる。
そして数日後、どうしてこんな会話をしていたのかを理解してしまうこととなる。






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