恋焦がれて見た夢6






お互いに自己紹介をしてから更に数時間。
俺はやはり臨也を抱く気にはなれなかった。
臨也は一応店主から任されてる身であるために、色々考えているようだった。
突然立ち上がると部屋を出て行った。
諦めたのかと思いほっとしているとすぐに戻ってきて俺の腕をとった。

「シズちゃん、こっち。」

腕を引き連れて来られたのは客と過ごす部屋だった。
おそらくここの使用を請いに行ったのだろう。
臨也はまた部屋を出て行き、俺は1人で突っ立っていた。
ぼーっとしていたところで襖を開けられ肩が跳ねた。
開けた雑用の少女も驚いたようだったが、すぐに中に入ってきた。

「準備させていただきますね。」

何のことやらと見ていると、布団や座布団、肘掛、行灯などが出されていく。
俺は慌ててそれを止めた。
これじゃあまるでこれから客が入るみたいじゃないか。
少女はぽかんとしてからクスクス笑い出した。
なんだかそれに恥ずかしくなりそっぽを向く。
これじゃあ何の経験もないのが丸分かりだ。

「臨也さんを抱けるのって凄いことなんですよ。
女の私から見ても綺麗ですし、うちの店のNo.1は臨也さんだって花魁の姉さんまでおっしゃるんです。
私の姉さん方もこっそり臨也さんのを見て勉強したんだそうですから。」

少女は全ての用意を終えると部屋から出て行った。
その前に始終立ち尽くしていた俺に、上座に座っているように言ってくれた。
言われたとおり上座に座っておく。
しかし、臨也は何者なんだろうか。花魁にそこまで言わせるような容姿だろうか?
それに他の遊女が臨也のどこを真似るというのだ。
まったくもってわからない。
よくよく部屋を見渡してみる。
客を取るようになれば、俺もこんな部屋で過ごすのか。
ここに来たからにはわかっていたが、いざとなるとまだ自覚できない。
ため息をついていると、襖のところに影が見えた。

「お待たせいたしました、失礼いたします。」

俺は息を呑んだ。
だってさっきまで着流しだったのに、今は着物を着ているのだ。
髪にはいくつか飾りがついている。
さっきの臨也とはまるで別人になっているようだった。
動揺してしまい何のリアクションも出来ずにいると臨也は俺の側に来て頭をさげた。
これじゃあまるで俺が臨也を買ったみたいじゃねぇか!
臨也の両肩を掴んで言い寄る。
それなのに臨也は笑った。
そして髪飾りを1つ外して俺の髪につけてきた。
まさか・・・と、俺は考える。
この若さで店にいながら異常に落ち着いていることや、
さっきの少女の話から察すると臨也はここで客を取っているのではないか。
しかも、多分・・・いや間違いなく客は男だ。
だから今日店主に呼ばれたんだ。

「やっとわかった?」

親指で自分の唇に乗った紅を掠め取るとそのまま俺の唇につけた。

「あぁ、似合うね・・・シズちゃん。でもコレは俺の仕事なの。
シズちゃんの仕事は別でしょ?今日の仕事は俺を抱くこと。
本当なら女の人を相手するとこだけど、店の遊女じゃ後々厄介だから俺なんだよ。」

わかるでしょ?なんて言いながら俺の首の後ろに腕を回してくる。
そしてそのまま俺の耳元で"大丈夫だから"と囁く。
不覚にも俺は鼓動が早まっていることに気づいたしまった。





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