恋焦がれて見た夢3



side静雄...



「静雄、お前またかい?」

俺はここに来る客があまり好きではない。
ほとんどのやつらは俺たち、彼女たちを見る目が汚く淀んでいる。
こっちだって商売だ、そんなもんには構わずニコニコする。
でも実際腹の中じゃため息もんだ。
それでもたまに純粋な眼差しをしている奴もいる。
まぁ大体が報われない平々凡々な庶民であるが。
今日の俺の客は金はあるが品というものを持ち合わせていないおばさんだった。
ここのルールを無視し、こともあろうか俺に襲い掛かってきた。
どんだけ飢えてんだよと思いながら、殴りたい衝動を我慢して押し返した。
そしたら不能だの何だの言いやがるから放置してその部屋を出た。
当然店に苦情が入り、今俺は店の主に呼ばれているところだ。

「まったく・・・。けど、今回ばかりは私もしょうがないと思うよ。」

それにあの客大したことないからね、と言っているしお咎めは無さそうだ。
俺にはけっこうな客が何人かついている。
それこそどこぞの大地主のお嬢さんだったり、富豪の妻だったり。
本物の金持ちは品がある。
俺が選んでる女たちは皆そうだ。
毎回床入するということではなく話をしたり、食事をするだけだったりが多い。
もちろん床入をする日もあるが数える程度だ。

「もういい、お戻り。」

部屋を後にして廊下を歩く。
自室に繋がる渡り廊下でふと足を止める。
遠くの方、小さく明かりの灯る離れが見える。
あそこにはうちの店一番の花魁が住んでいる。
名前は臨也。
正真正銘の男であるが、その容姿は群を抜いている。
少々性格がひねくれてると俺は思うが、周りはそれさえもいいと言う。
小さい頃からここにいて、古典や書道、茶道に三味線と教養や芸事まで身につけている。
あいつは花魁だから初会で客が気に入らなければ取らない。
会うということだけでもどれだけ金を積めばいいのかわからないほどだ。

高嶺の花

まさにそれだと俺は思う。
俺の給料全部出しても通い続けるなんてのは不可能なんだろう。
けど、俺はこっそり会いに行く。
臨也もそのことをわかっていて、側に仕えている禿たちも誰にも何も言わない。
それをいいことに俺は一銭も払わずに臨也に会う。
そもそも同じ店で働いてるやつを買えるんだろうか?
いやいや何てことを考えているんだか、俺は臨也を買いたいわけじゃないってのに。

俺は再び歩き出す。
それは自室へ向かうためではない。

「今日の茶菓子は何が出るだろうな。」







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