21 side静雄



真剣に考えていると、あ、と臨也の間の抜けた声がした。

「おい、話聞いてんのかよ。」

呆れて言うと俺の目の前に手のひらを突き出して来た。
手相でも見ろって言うのか?

「見てよ、薬指だけぴったりとか怖いんだけど。」

それはあまりに不意打ち過ぎるだろう。
笑顔でそれを見せてくる臨也を見て、もうすっかり止まったと思った涙は再び溢れてきた。
俺は臨也の肩に顔を埋めた。
臨也の腕が俺の背中に回り、ぎゅっと力をこめて抱きついてくる。
シズちゃんシズちゃん、と呼ぶ声が一層愛しく思えた。


「俺手紙いっぱい書くから。」

「電話しろ。」

「シズちゃんもしてね。」

「当たり前だろ。」

「うん。」

「臨也…。」

「シズちゃ…。」


コンコン


「臨也。静雄くんのお母さんから電話あったんだけど…って何してたの?」

すっげぇいい雰囲気になってて、あと少しでキスという絶妙なタイミングで臨也の母親が部屋にやってきた。
ノックされた瞬間に、臨也は俺を突き飛ばしたのだ。
そのためなんとも不思議な立ち居地になっている。
あはは、と笑って誤魔化している臨也。
心配してくれる臨也の母親に大丈夫だと告げると、話の続きを始めた。
その内容は俺たちが話し込んでるようだから、時間も遅いし臨也の家に泊めると俺の母親に言ったということでその確認に来たらしい。
俺はその好意を断り、今日は自宅に帰るということを言い夜遅くにすみませんでしたと頭を下げた。
臨也は俺を送ると一緒に家を出た。

俺の家の前、臨也がまた明日と手を振った。
明日も臨也に会える、それがとても嬉しいことに思える。
家に入ろうとしたとき、名前を呼ばれ振り向くと同時に何かを投げられた。

「あっぶねぇな!何つぅもん投げんだよ!」

それはいつも臨也が持っていて愛用しているサバイバルナイフだった。

「それ、預かってて。指輪とか俺持ってないから、今持ってる中で大事なのそれだから。」

それだけ言って臨也は走って帰ってしまった。
俺は手の中に光るそれを握り締め、玄関のドアを開けた。


 



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