19 side静雄




ピンポーン ピンポーン

「はい、あら静雄くん。臨也なら部屋に居るわよ。」

見知った臨也の母親が出てきて快く中に通してくれた。
時間が遅いのに嫌な顔一つしないのはさすがだと思った。
きちんと挨拶をしてから2階にある臨也の部屋を目指す。
勢いよくドアを開けると、臨也は驚きの声となぜ俺が来たのかという疑問の声を上げた。
それを見て、こいつは本当に何も言わずに行くつもりだったのだと思い知る。
結局俺たち幼馴染はそんなもんだったのか?
親同士の世間話なんかじゃなく、ちゃんとお前の口から聞きたかった。
俺は静かに口を開いた。

「手前、俺に・・・新羅や門田に何か言うことないか?」

そう尋ねると何もないと言いやがった。
だからもう単刀直入に言った。

「アメリカ、行くんだってな。」

ここでようやく臨也はハッとした顔を見せ、俯いて小さく返事をした。
マジかよ・・・、心のどこかで嘘であって欲しいと思っていた。
だけど臨也は否定しなかった。

「何で言わねぇんだよ!進路調査の時からずっと悩んでたんだろ。」

別に責めたいわけではないが、やり場のない怒りと後悔で声を荒げてしまう。
今までの臨也の様子や言動を考えると一層やるせない気持ちになった。
せめて、少しでも相談してもらいたかった。
俺にじゃなくてもいい、新羅でも門田にでも言ってくれていれば・・・。

「言ってさ、もしも行くなとか言われたら俺迷ってたと思うから。」

もし、今言って変わるのなら引き止めたい。
俺は臨也と離れたくないんだ。
思い切り臨也の細い体を抱きしめた。

「シズちゃん苦しいよ。離して。」

「行くな…。」

今更言ってもどうにも出来ないことくらい知っているけれど、言わずにはいられない。
だから俺はその言葉を繰り返した。
みっともないくらいに泣きながら、何度も何度も。
だってまさかこんな日が来るなんて夢にも思っていなかったから。
そばにいるのが当然で、この街に住んでいたら嫌でも会うようなこの環境がずっと続くのだと思っていた。


 
それが、もうすぐ終わる。

 
 



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