10





「臨也…!?」


運悪く途中でシズちゃんに会ってしまった。
それでも俺はそのままシズちゃんの横を通り抜けた。

伸ばされた腕を避けて。

今、捕まるわけにはいかない。

まだ涙は引いていないんだ。


「待てよ臨也!」


リーチも体力もかなわない、けど家までもてばいい。
道行く人が変な目で見ているなんて関係ない。

はやく

はやく

はやく!

涙と全力疾走で呼吸がおかしい。
息を吸っているのか吐いているのかわからなくなる。

「はぁはぁっ…はぁ…。」


間一髪、俺は自宅の鍵を開けそのまま滑り込んだ。
そのすぐ後にシズちゃんがドアを叩く音がした。
ドアに背を預けて座っていた俺にその振動が伝わる。

「臨也!何かあったのか!?」

…あぁ、もう、本当に…シズちゃん死ねばいいのにな。

しばらく俺はそこに座ったままで動けなかった。



その日は嫌な夢を見た。

シズちゃんに彼女が出来る夢。幸せそうに笑うシズちゃん。
現実でも彼はあんな笑顔を誰かに見せるのだろうか。
そして、自分なんかには目もくれなくなってしまうのか。
俺を置いていかないで欲しい、胸が痛くて涙が止まらなかった。
こんな自分を俺は知らない。こんなの俺じゃない。

「ふっ…ぐすっ…シズちゃ…。」

その日は学校を休んでしまった。

 



Prev Next