9





 
ある日の放課後、みんなそれぞれに部活やら委員会活動やらに向かう中、
俺は1人帰るでも部活に行くでもなく教室に残っていた。
あの忌々しい紙を目の前にして・・・。



>臨也、最終の進路希望まだ書いてないのか?

「あー、うん。」

白紙のままのそれを見て、セルティが心配そうにしている。
俺だって何の考えもないわけではない。
ただ、決めかねているんだ。
何か力になれたらいいんだが、と言ってくれるその気持ちだけで十分だった。
帰っていく後姿に小さくありがとうと言ってみた。

♪…

携帯がメールを受信したことを告げた。
それはドタチンからのもので、
[俺と新羅はちょっと用事があるから静雄と一緒に帰るんだぞ。危ないから1人で
帰ったりするなよ。]
と書いてあった。ドタチンってば今日はお父さんみたいだな。
それにしても俺だって男だし、高校3年になっても未だに1人で帰ることを心配されるってどうなんだか。
そう思いながらもドタチンに了解、と返事を打った。
携帯をしまって窓の外を見る。そこには部活に勤しむ生徒の姿があった。
そして意外な人物を見つけてしまった。

(あ、噂をすればシズちゃん。)

どうやら誰かを待っているようだった。
携帯をいじっていると小さくて可愛らしい女の子が控えめにやってきた。

(へぇー、女の子に呼び出されたりするんだ。)

見ていると何やら女の子と会話をし出したようだ。
女の子の方は真っ赤になりながらもわたわたと喋っている。
シズちゃんも頭を掻きながら少し照れた感じで笑っているように見える。

(後でからかってやろ……って、あれ?)

俺何泣いてんだろ、一度出てしまったものを堰きとめられずボロボロと涙がこぼれる。
こんな顔ではシズちゃんに会えない。
もしかしたらさっきの子と帰ってしまうかもしれないけれど・・・。
そう思い進路希望をぐしゃぐしゃと鞄に突っ込んで、教室を飛び出した。

 



Prev Next