20の後の話し。リゾット視点
「ご心配をおかけしました」
 そう言って頭を下げる凜に、オレはなんて声を掛けてやればいいかわからなかった。勝手な事をするなと怒るのも筋違いだし、そもそも凜が怪我をしたのもオレ達の反応が遅れて凜が庇ってくれたからだ。謝るのはむしろこっちだった。
「しっかり傷を塞げたのか?」
 やっと出た言葉がそれだった。そう言うと、凜はいつものように柔らかい笑みを浮かべてお陰様ですと答えた。複雑さと申し訳無さの意味を込めて、次は気をつけろと全く気の利かない事を言って凜の頭をそっと撫でた。
「アレだっ! ようやく思い出したんだよッ!」
 いつもはいらない事まで喋るメローネが、珍しく黙って何かを考えているなと思っていると、突然閃いたかのように手を叩いた。
 何を思い出したのと凜が尋ねると、メローネは凜の両手を取り、高揚し早口で想いのままに話し始めた。どうやら、さっきの凜の『食事』を見て何かのツボに入ったらしい。息を荒くしたメローネが凜の両手を自身の股間に持っていくと、凜は目を見開いて思いっきりメローネの股間を蹴り上げた。当然、奴は叫ぶこともできず痛みで悶絶し蹲っていたが『ベネベネ』と呟いていていつもの調子だったので、メローネを置いて二人でさっさとホテルへと戻った。

「もう任務は終わったようなもんだし、ちょっと遊びに行ってくる」
 と言ったメローネが部屋から出ていってしまうと、凜と二人きりになってしまった。チラッと凜に目を配ると、今の状況に対して特に気にせず荷物の整理をしていた。脇腹と右肩の部分の服は裂けていて、血がベットリと付着している。
 さっきメローネが凜の『食事』光景に興奮したと言っていたが、オレは人の事を変態扱いはできないかもしれない。凜はスタンドで人を喰い散らかしていた時、血ですっかり駄目になった手袋を忌まわしそうに見ると、無意識なのか手袋から滲みて手に付着した自身の血を美味そうに舐め取っていた。人を喰っている時のいつもと違う笑みと、覗かせる赤い舌にオレは欲情していた事に気がついた。普段の品行方正な姿から垣間に見えた邪悪で下品な行為に、どこか惹かれてしまっていた。
「リーダー、すみませんが先にシャワー浴びさせてもらいますね」
 着替え一式にバスタオルを持った凜に声を掛けられて、ハッと意識を戻した。つい考え込んでしまった。
「……なんで庇ったんだ?」
「えっ……!!」
 凜はオレの突然の問いかけに驚き、シャワールームに行く足を止めた。さっきから胸につっかかっていた疑問だった。
「……さっき見た通り、僕なら治せるからですよ。24時間以内だったら……」
 凜の言葉を最後まで聞かず、細い腕を掴み自分の元に引き寄せた。持っていた一式は床に無残に落ち、凜の目は大きく見開いた。身体を寄せれば、凜から血と一緒に甘い匂いがして頭がクラクラした。
「本当に傷は塞がっているのか?」
 突然の事に凜は狼狽えていて離れようとしたが、それに構わずに破れた服の部分から手を滑り込ませると、血が固まった物とスベスベとした肌の感覚が手から伝わる。凜は擽ったそうに身を捩った。破れたところから一気に服を裂けば、流石に凜も抵抗するが傷を確認するだけだ。女にしてはよく引き締まった脇腹周辺を見れば、本当に傷口など何もなかった。
 いくら治せるからとは言え、ずいぶん痛かっただろうに。思わずそこに唇をつけると、頭上からリーダーと死にそうな声が聞こえた。
 上を見上げれば、身体を震わせ首から耳たぶまで真っ赤にし涙目の凜と目が合った。そこで自分が何をしてしまったか急に冷静になって、ひたすら謝った。凜は落ちた物を慌てて拾い集め、シャワールームに逃げていったのだった。
「……しでかしたな」
 ベッドに倒れ込み、己の行動に恥じたのであった。

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