18の任務執行前の話し
――寒いのは昔から嫌いだ。
 ここジェノヴァは、イタリアの北西部にあるだけであってクソ寒い。せいぜい一日しかいないが、オレの荷物には服を大量に詰めてきた。遠隔操作型な為に任務中はじっとしているのもあるし、男の癖に冷え性だった。
 ホテルで作戦会議を済ませると、予定の時間まではまだ数時間残されている。沢山着込んで、外へ出れば凍てつく風に鳥肌を立てながらも人が集まる街中心部へ向かった。
 
 ポケットに突っ込んだ手の小瓶には、数滴の血液が入っている。事前にリーダーから預かったパッショーネの工作員を殺害した者の血液だった。オレはこれから任務用のベイビィを用意しなくてはならなかった。酒、煙草、ドラッグをやり気性の荒い女ほどいいベイビィが産まれる。そして、父親とは正反対な者ほどいい。今回の血液の持ち主は、人殺しの癖に組織の中では一番臆病者だ。うってつけの女を探すには、やはりそういう場所に足を運ぶのが自然だ。
 煙草や酒の臭いが篭り、耳障りな音楽が身体に響く薄暗い箱。こんなに栄える都市でも、暗の部分は健在する。音楽に乗り踊る者、酒に酔い喧嘩をおっ始める者、下品な服を着たケバい化粧をした女を侍らす者と様々だ。オレも適当に音楽に乗りながら、母親に出来そうな女を探す。こういう時に顔がわりと良い事が役に立つ。ちょっとウロウロしているだけで、何人の女が纏わりつく。安そうな臭いの香水をつけて、無駄にある胸をくっつけてくる。腕は注射で何度も刺した跡があり、青痰のようになっていた。酒で焼けた声で一緒に遊ばないと誘ってくるのが非常に不愉快だった。女たちの顔は悪くないが、こんなんじゃ勃つモノも勃たねぇ。
 こんなやつらよりも凜の方がよっぽどいい女だ。ベイビィの母親には向かないが、ギャングの癖に清潔でいい匂いがして賢くて上品、美味い飯も作れて何よりあの幼い顔が可愛い。早く調達を終わらせて会いにいかないといけないな。
 
「さて、この中から君の好みを選んでくれよ。楽しんでやる事が重要なんだからさ」
 一番健康そうな女を連れ出し、キョトンとする女にいろんなキスをする図が載っているPCを見せた。それをじっくり眺めた女は、ケラケラと楽しそうに笑い好みの番号を指さした。だいたいの女はこれを見せるとビンタを食らわせてくるが、頭の可笑しいやつだったのかビンタをしてこなかった。おかげでベイビィを拵えるのをスムーズにできた。
「ねぇねぇ、これ選ぶとどうなるのぉ? お兄さんとこういうのができるのかしら?」
 女は細い腕を首に絡みつけ、身体を密着して顔を近づけてくる。実に酒臭い、そしてそのひび割れた唇には欲情できない。酷く不愉快で離れてほしくて、女の細い首を締めた。クックと苦しそうに息づく女の吐息を聞きながら、ベイビィ・フェイスの本体が子供が産まれるカウントダウンをするのを待った。
 ――母親をお腹一杯に食べたベイビィを連れて、寒風が当たらない場所へ向かった。ベイビィを完璧に教育しなくては……任務まであとほんの数時間。
*前表紙次#
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