暗殺チームの料理当番
 我が暗殺チームでは毎日の晩ごはんは当番制で作っている。だが、当番制と言えども全員が全員やるってわけではないらしい。
 リーダーは魚だったり、やたらレモンを使った料理をよく作る。ホルマジオは豪快(悪く言えば大雑把)で簡単に作る事ができる料理と肉料理が多い。プロシュートは自分の大好きなワインに合う料理と、酒のツマミになるような物。イルーゾォはあっさりした味付が好きらしく、いつも全体的に薄いと文句を言われているようだ。ペッシが当番の時は、海から魚を釣ってくるらしく新鮮な魚を使った料理だ。ソルベは意外と手先が器用なのか、凝った料理を作る。
 基本的にはこの6人で回していて、うっかり当番を忘れると全員分の外食orデリバリー代を奢るというペナルティーがあり、それはもう血も涙も容赦もなく注文をされるらしい。
 当番から外されている残りの3人には、外されるだけの理由があるようだ。ギアッチョは元の性格のせいか、生焼けだったり作っている最中に切れると食材に当たる為。メローネはしっかりやればできるのに、料理の中に怪しげな薬を混入しようとしたのをリーダーにバレたお陰で永久剥奪された。ジェラートはどうやったのかは知らないが、一度火事騒ぎを起こした挙げ句、二回ほど電子レンジをガラクタにした為。メローネとジェラートは当番の変わりに、食後の食器洗いをする当番になった(ギアッチョは皿を割りまくるので、ゴミ捨て当番である)。

 先週僕も無事に当番に加わり、今日は暗殺チーム初めての夕飯担当である。ちなみに前のチームでも当番制だった為、死に物狂いで料理を習って今じゃなんとかできるようになった。
 不安なのは皆の口に合うかと、前チームでは4人分だった為に大人数分の調理がスムーズにできるかどうかだった。こういうのは結局は慣れでやるものだが、はじめてという事なので早めの時間から準備を始めた。
 本日、アジトで食事を取るのは全員で6人。献立はすでに決まっていたので冷蔵庫の中身をチェックし、材料の確認をする。足りないものをメモし、市場へと買い出しにでかけた。
――調理も大方終わり、ダイニングテーブルを片付け出来上がった物を並べた。
 メニューは、カポナータを始め殆どがシチリア料理だ。これは、僕が前チームで教わりながら作った初めての料理。あの時はダメ出しをもらったりしたけど、日が立つにつれ上達したと褒めてくれるようになった思い出深い物。『初心忘るべからず』っていうやつだ。
「美味そうな匂いがするな」
「本当だっ! 今日の夕飯は何でしょうねぇ兄貴っ!」
 そろそろメンバー達を呼んでこないとと思っている時に、タイミングよくプロシュートとペッシが帰ってきた。
「お帰りなさい。……えっと、実は今日僕が当番なんだ、悪いんだけど、もう出来たから皆を呼んでもらえると助かるんだけど」
 そう二人に告げると、プロシュートに小突かれたペッシが慌てて呼びに行ってくれたのだった。

「何々? 今日の当番は凜だったの? 女の子の手料理食えるオレってラッキー。ベリッシモ美味そう」
「これってシチリア料理? 見たことがあるけど、食べたことない物ばかりだ」
 リビングに入ってきたチーム達が、並べた料理を見て次々と口を揃えた。ペッシ、プロシュート、メローネ、ホルマジオと今日夕飯を取るメンバーが集まり、後はリーダーだけだった。
「おっ、凜も当番に入れられたんだな。シチリア料理ねぇ……あいつは結構味にうるさいぞ?」
「?」
 ホルマジオが言った事に、なんの事やらと不思議に思うとようやく執務室からリーダーが出てきた。徹夜続きなのか顔が青白い。
「やっとリーダー出てきたぁ。早くしないとせっかくの飯が冷めちまうぜ」
「あぁ、すまないな。先に食べててよかったのに」
「何言ってんだぁリゾットよぉ〜全員揃わなきゃ意味ねぇんだろ? ワインも用意したから飲もうぜ!」
「そうだな……シチリア料理か……」
「あっ、シチリア料理お嫌いでしたか?」
「いいや。今日の料理当番は霧坂だったか」
 リーダーも来たことだし、食べるぞと我先に手を出したのはメローネだった。口に運ばれた瞬間、やはり緊張するものだ。
「……やべっ、超美味いっ! これとか初めてだけど美味いもんだな」
 嬉しい感想を言ってくれた後、ガツガツと食べるのを進めていく。他のメンバー達も気に入ってくれたようで、おかわりはあるのかと聞いてきてくれる。ただ、リーダーだけが一口食べただけで何か考え込むように食べるのを辞めてしまった。
「あのっ、リーダー……お口に合いませんでしたか?」
「なんだぁリゾット? 食べねぇんならオレが食ってやるぞ」
 リーダーの様子を怪訝に思ったプロシュートが、フォークをリーダーの皿に向けると慌てて皿を取った。
「勝手に取ろうとするんじゃねぇ。……いや、あまりに美味しくて驚いていただけだ。懐かしいなって思ってな……凜は料理が上手いんだな」
 リーダーの発言に、さっきまで騒がしかったのが一気に静まり返った。今のに聞き間違えが無ければ、苗字ではなく名前を呼ばれた。
「リーダーがとうとう凜を名前呼びで呼んだ……?」
「おいおいおい。リゾットリゾットよぉ〜お前まだ凜を苗字呼びで呼んでいたのかぁ? 普通に凜って呼べばいいじゃねぇか」
「料理に絆されちまったのかリゾットォ? 胃袋を掴まされるってのはこういう事かねぇ」
 メローネとプロシュートとホルマジオがそれぞれからかうと、リーダーはわかりやすくアタフタする。
「い、いやっ、それはなんというか咄嗟の事でっ無意識というか……」
「あの、リーダーさえ良ければこれからは名前で呼んでください。無理にとは言いませんが」
 そう頼んでみると、リーダーは少し考えてからわかったと言ってくれた。その後、リーダーは少しいじられながらも楽しい夕食となった。
 僕は何故かわからないが、リーダーに名前で呼んでくれた事は勿論、リーダーに褒められたのが一番嬉しく思えたのだった。
*前表紙次#
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