13の後の話し。 ギアッチョ視点
 あのムカつくジャポネーゼに負けてから二日経った。あの時最後に叩きつけられた所で意識を失い、目覚めた時に自分が敗北した事を察した。本当なら実力ってのを見せつけてシメてやろうと思ったのにこのザマかって怒りよりも情けない気持ちが勝っていた。最強だと思っていた自分のスタンドをこうあっさりと破られたら、プライドという物が崩れる。もっと鍛錬しなくてはならない、ここで終わらせたら前には進めない。

 なんとなくリビングに降りると、出払っているのか誰もいなかった。腹が減っていたけど、用意する気がしなくてそのへんにあった車の雑誌をソファーに座って眺めていた。金が貯まったらどれを買うかとか考えていると、誰かがリビングに入ってきた。誰かとドアに視線を送ると、今は会いたくないジャポネーゼが入ってきた。すぐ視線を雑誌に戻すと、向こうはこっちの気も知れずに呑気に挨拶してきた。返事をする気なんて微塵もなくシカトしていると、向こうもどこか気まずいのか一昨日の事を持ち出した。敗北した事を思い出し、無意識に眉間に皺が寄る。こっちが無言にも関わらず、向こうはベラベラと話し始めた。オレともう勝負をしたくない理由が、寒いからとかフザケているのだろうか。こいつにとってはオレのスタンドなんて目もくれないのだろう。脅威だとかそういう対象ではなく、『寒い』だけの印象なのか。そう思われちゃ、こっちが敵意むき出しにしても馬鹿らしいだけだな。
「……お前変なやつだな」
 ガキみたいな見た目な癖に年上だったり、物腰柔らかそうなのにスタンドはやけに荒かったり、大食いだったり、拷問チームとかから来たよくわからない奴。
「そうかな?」
「すっげぇ、ムカつくけどこの前のはオレの負けだ。もっと機転を利かせれば、お前に勝てたのかもしれねぇけど、その点はお前が上だった。……ぶち割りてぇけど、それじゃオレは強くならないからな」
 そのキョトンとした表情もムカつくが、オレの言葉には嘘はない。頭を強く掻きソファーに腰を下ろした。さっきセットしていたエスプレッソマシンが出来上がった音をだした。霧坂 ……いや、メローネが言っていた通り言いにくいから凜と呼ぶか。凜にオレも飲むかと聞かれたので、頷くとオレが使っているマグカップを取り出した。こいつちゃんとオレ専用のカップ覚えているんだなと、少しばかり感心した。
 朝は、砂糖5個にミルク入りのを飲むに限る。美味いと言えば、嬉しそうに凜は微笑んだ。ジャリジャリとまだ溶けていない砂糖を噛み締めると、ダイレクトに甘さが喉を通り思わず眉間に皺を寄せた。凜は何かを思い出したかのように立ち上がると、キッチンに入った。しばらくすると、キッチンからパンを焼く香ばしい匂いと何かを切っている包丁の音が聞こえた。キッチンから出てきた凜が持っていた皿には、なかなかの大きさのパニーニだった。トマト、モッツァレラチーズ、アボカドと定番な具だったが、空腹だったオレには美味そうに見えた。身体は正直なようで、腹は空腹を訴える音を出した。その音は、凜にもバッチリ聞こえていたようで黒い瞳がこっちを向いた。気まずくて誤魔化すためにエスプレッソを啜った。
「同じ物で良ければ作ろうか?」
「……いらねぇよ」
 餌付けされているような気がして突っぱねたが、腹はまたしても食べ物を寄越せと訴える。凜はまたキッチンに行くと、さっきと同じようにパンを焼き材料を挟んでもう一つのパニーニを持ってきた。
「食べたければ食べればいい。いらないなら2つとも僕のだ」
「…………チッ」
 いらねぇって言ったけど、これ見よがしに目の前で2つも食べられるのはムカつく。舌打ちをして、仕方がないから食ってやるよというスタンスでパニーニに齧りついた。パンの食感がよくトマトの甘味とチーズとアボカドの濃厚さが口に広がった。あとは……何か味付けをしているのかそれが効いていて美味い。勢い良く噛りすぎて、反対側から溢れたトマトが皿に落ちるとクスクスと笑い声が聞こえた。
「そんなに慌てなくても取らないさ」
「別に慌ててない」
 慌てているわけではなかった。ただ腹が減っていてこのパニーニが美味いから、食べるペースが早くなってしまうだけだ。そこそこ大きかったからか、完食した時にはすでに満腹になっていた。やはり人間腹が満たされるといい気分になるもんだ。
「ごちそうさん。……また今度作ってくれよ美味かったから。……じゃあな凜」
 がっついた所を見せた事と初めてこいつの名前を呼んだ事が恥ずかしくなり、早口で伝えてリビングを出た。外はいい天気だったし、どっかでランニングでもするか。
*前表紙次#
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