ペッシとイルーゾォ
 キッチンに用があってリビングに入ると、ダイニングテーブルの奥に草のような物が動いている事に気がついた。はて、このアジトに観葉植物なんて置いてあったかなと思いその物体に近づいた。
「こんな所、兄貴に見られたらまたドヤされちまうぜ……」
 草かと思ったが、人だったようだ。具体的に言うのなら緑色の髪を立たせたヘアースタイルをした男性。まだ名前を聞いていなかったはずだった。ブツブツ言って何をしているんだと思って覗き込むと、食器の割れた欠片があっちこっちに飛んでいるを片付けているようだ。
「良かったら手伝いましょうか?」
「うわぁぁぁぁっ!?」
 後ろから声をかけてみると、こんな近くにいたのに気が付かれていなかったようだ。しゃがんでいた彼は、悲鳴を上げると後ろにひっくり返ってしまった。声を掛ける前に何か物音を立てた方が、まだそんなに驚かせずにできたかなと反省しつつ、突然声をかけた事を謝罪した。
「おっ、驚いてねぇしっ! バカにするなよなっっ!」
 バカにはしていないが、どう見ても慌てふためいているように見える。
「バカになんてしていないよ。……えっと、貴方の名前はペッシ・イルーゾォ・ソルベ・ジェラートのうちどれでしょうか?」
「そいつはペッシ。そしてオレはイルーゾォ」
 特徴的な耳と髪型の彼にまだ聞いていない名前を尋ねると、これまた特徴的な髪型をした男性が背後に立っていた。黒髪をいくつもおさげに結んでいて体型は痩せ型で、顔色はどこか青白い。
「あっ、イルーゾォ」
「……ペッシ、また皿を割ったのか。見つかったのがプロシュートじゃなくて良かったな」
「ごめんよぉ……」
「とりあえず、箒とチリトリを持ってくるよ。素手で拾うのは危ないからね」
 二人にそう告げると、急いで屋上へ取りに行った。

 散らばった皿の破片を箒で全て集め、広げた新聞紙にまとめて捨てて片付けは完了した。
「えっと、ありがとよ。手伝ってもらって……凜で合っていたっけ?」
「どういたしまして。大丈夫、合っているよ……二人とはちゃんと話した事は初めてだよね。よろしく」
「うん、よろしく! 改めてオレはペッシだよ」
「……」
 ニコニコとするペッシとは反対に、イルーゾォは顔を背け部屋から出ていってしまった。
「……イルーゾォは人見知りな所があるから、あんまり気にしないほうがいいよ。オレの時も最初は全然話しかけてくれなかったから」
 フォローするかのように、ペッシは慌てて言った。
「そうなんだ。……まぁ、それなら仕方がないね」
 ウンウンと頷くと、ペッシはどこかホッとしたような表情を浮かべた。こんな世界だからこそ、よそのチームから来た新人者には距離を置きたくなるのも仕方がない事だ。
「良かった、思っていたより凜は付き合いやすいタイプの人で。こんな事言っているのを兄貴が聞いたら、『だからオメェはマンモーニなんだよっ!』って叱られちまうけどさ」
「プロシュートの事、ずいぶん慕っているんだね」
「そりゃあ、そうさっ! プロシュート兄ぃはめちゃくちゃ格好いいし、強いし尊敬できるオレにとって憧れの存在っ! いつかオレも兄貴みたいな漢になりたいんだっ!」
 火が付いたように熱弁するペッシに相槌をした。そうとう彼に入れ込んでいるようだ。確かに彼は美術品のように美しいし、まだ実力はわからないがこのチームで生き残っている時点で実力があるのだと思う。そしてきっと面倒見がいいのだろう。でもペッシのこの様子を見ると、憧れというよりも信仰という形が近いんじゃないかと僕は思う。まだまだプロシュートについて尽きない話しを聞いているうちに、冷凍庫に入っているジェラートを食べようとしてキッチンに来た事を思いだした。
「あぁ、そうだ。良かったらペッシもジェラート食べない? 僕、ジェラート食べにキッチンに来たんだ」
 冷凍庫から2つのジェラートを取り出して、誘ってみると乗ってくれたので二人で食べる事にした。ジェラートが1つ余分に減ってしまったけど、長くなりそうな話を終わらせる事ができたから良かったとしよう。
*前表紙次#
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