アジトへお引っ越し 10の後の話
 昼食後、バイクの後ろにホルマジオを乗せて僕たちはアジトへと戻った。ガレージの隅にバイクを止めて、3階に行ったまではよかった。部屋のドアを開けると一つ大きな問題ができてしまった。
「うわぁ……」
 思わず声が出てしまうほど、部屋の中は汚かった。案内してもらった時はあまりよくわからなかったが、紙くずが隅っこに落ちていたり埃が床に溜まっていてとてもそこにカーペットを敷く気になれない。
「どうかしたか?」
「荷物入れる前に部屋を掃除しなきゃ。悪いんだけどさ、荷物はそっちの部屋の前に置いておいてくれるかな?」
 部屋に入る足を止めたのを不思議に思ったホルマジオに声を掛けられたが、このまま家具を入れればきっと埃があっちこっちに舞うだろう。ちょうど隣の部屋は空いているから、掃除の間はそこに置けばいい。
「あー……そうだな。埃臭ぇしな、掃除用具は屋上に置いてあるぜ」
 ホルマジオにお礼をいい、屋上へ向かった。

 男所帯の割には、掃除用具がちゃんと揃っている事に驚いた。雑巾、箒、ゴミ袋、掃除用の洗剤とかキチンとあったが、あまり使われた形跡がないのはご愛嬌かも。とにかくこれで掃除する事ができる。
 まず汚い窓ガラスを開けて換気をする。入ってくる光のお陰で部屋に舞っている埃がキラキラと光った。乾燥対策で持っていたマスクを装着し、箒で床を掃いた。できれば掃除機でやってしまいたかったが、そんな物はアジトにはないらしい。今度自宅にある物を持ってこないといけないな。
 ある程度ゴミと埃と砂をかき集め、チリトリで取りゴミ袋に入れた。バケツに汲んできた水で雑巾を濡らし端っこから雑巾掛けをしようとすると、たった一列だけで雑巾は真っ黒だった。さすが土足文化。長年の汚れも原因かと思うが、家の中でも土足なせいで砂やら土とかの汚れがこびりついたのだろう。少々うんざりしながらも、途中でバケツの水を取り替えたりして拭き掃除した。本当ならもうここでお終いにしたいところだが、最後の仕上げにフローリング用の洗剤を使わなくてはいけなかった。クタクタになりながらも、ようやく掃除が終わった頃には日が暮れていた。
 
 まだ未使用だった紺色のカーペットのサイズがちょうどよかったのは嬉しい限り。ほとんどの家具は僕のスタンドで運べたが、ベッドはドアの所でつっかえて中に入れる事ができなかった。
「よぉ、掃除は終わったか? メシできるから、降りてこいよ」
 困っていた僕の元に運良くホルマジオが戻ってきた。こんな事を口には出せないが、こういう時に彼の存在は大助かりだと思う。彼に事情を話すと、昼飯奢ってくれたからなと快くベッドを小さくしてくれた。
「わざわざカーペット敷いたのか? すぐ汚れちまうだろ?」
「部屋の中では靴を脱ぐから大丈夫。時々掃除機かければそんなに汚れないよ」
 僕がそういうと、彼は不思議そうな顔をした。
「日本は家の中では靴を脱いで上がるんだよ」
「マジかよ」
「うん。でも、ここはイタリアだからね。だから部屋以外はスリッパを履いているんだ」
 つっかけサンダルを履いた足元を指差すと、ホルマジオは気がつかなかったぜと笑った。
「どうりで、いつもより背が低いなと思ったわけだ」
「失礼だな」
 そんな軽口を叩いている間に、小さくなったベッドを運び出しようやく引っ越し作業が終わった。
「早く飯食いに行こうぜ」
 ご飯の単語を聞いた瞬間お腹が鳴るのが聞こえた。家具を運ぶ時に慎重になりすぎて、体力を消費したせいだろう。
『土足禁止』と書いたプレートをドアに掛け、今日の夕飯はなんだろうとウキウキしながらホルマジオの後をついて行くのであった。
*前表紙次#
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