暗殺チームの冷蔵庫事情
バイト先のお使いで港近くで開かれているマーケットへ行くと、いつも来てくれるからとサービスで顔なじみの店主から大量のトマトを譲ってもらった。その足で店へ戻りトマトを譲ってもらった事を話すと、凜はトマト好きでしょとお駄賃代わりにもらった。
アジトに戻ると、出払っているのか誰もいなかった。キッチンのテーブルに紙袋を置いて、まだ開けた事がなかった冷蔵庫を、何も考えずに開いた事を後悔した。
まず開けた瞬間に、中の物が雪崩のごとく降ってきた。飲みかけのペットボトルやら、調味料やら干からびているよく分からない食べ物だったらしき物。そんなのが大量にあって、冷蔵庫の中は変な臭いはするし謎の液体が溢れている。あまりの酷さに思わず目眩がした。流しはちゃんと綺麗にしてあったから、油断していたかもしれない。野菜室も冷凍庫も似たような状態で、とてもトマトなんて仕舞えない。僕は溜息をついて、服の袖を捲くった。
「なんだかいい匂いがするな」
後ろから声を掛けられ、振り向くとリーダーがいつの間にか背後に立っていた。
「今日トマトを一杯貰ったんで、冷蔵庫に余っていた野菜と一緒にミネストローネ作ったんです。……勝手に作っちゃったんですけど、ダメでしたか?」
このチームに入ってから、僕はまだ食事当番を任されていなかった。それなのに勝手に野菜を使ったのは、今更ながらも不味かったかなと思った。
「……いや、構わない」
リーダーは近くにあったスプーンでスープを掬い口に含んだ。口に合うだろうかと、ドキドキしながら見ていた。
「美味いな」
相変わらず読めない表情だったが、ただその一言は素直に嬉しかった。どうせ言われるなら美味しいと言われた方が、こっちも嬉しい。
「ありがとうございます」
「他に料理はできるか? お前にも食事当番を任せたいんだが」
「料理は作れますが……いいんですか?」
警戒している僕に作らせちゃってという意味を含めて言った。
「あぁ、構わない。来週から当番順に入れるからな」
極僅かだけど、リーダーの口角が上がった。普段仏頂面な彼の貴重な笑顔を見て、何十分も掛けて冷蔵庫を掃除して苦労した甲斐があったと思ったのだった。