13の後の話し。
 ギアッチョとのスタンドバトルから二日後。朝食を取ろうと思いリビングに降りると、そこには車雑誌を見ているギアッチョしかいなかった。正直言ってあぁいう終わり方から会っていなかったので、どこか気まずい。
「おはよ、ギアッチョ」
「……」
 声を掛けてみたけれど、挨拶は返ってくるどころか目も合わせてくれなかった。彼も勝負の時の事を気にしているのだろうか。
「あー……調子の方はどう? ……一昨日の事なんだけどさ」
 最後で声が小さくなってしまったが、ちゃんと聞こえたらしくギアッチョの眉間にはっきり皺が寄っているのが見えた。
「僕はもう君とは勝負したくないな。頑丈だから安心してスタンドを使えるけど、何より寒かった。いや、寒いを通り越して肌が痛かった」 
 一昨日の事を思い出すと、鳥肌がゾワっとたつ。慌てて身体を温める為に、珈琲メーカーをセットした。
「…………お前変なやつだな」
 ボソッと後ろで聞こえたので振り向くと、雑誌から顔を上げてこっちを見るギアッチョと目が合った。てっきり切れられると思っていたので、意外な反応だと思った。
「そうかな?」
「すっげぇ、ムカつくけどこの前のはオレの負けだ。もっと機転を利かせれば、お前に勝てたのかもしれねぇけど、その点はお前が上だった。……ぶち割りてぇけど、それじゃオレは強くならないからな」
 行き場のない怒りを当てるかのように、ギアッチョは自身の頭をガリガリと掻いた。僕は彼の事をすぐ物に当たり散らす危ない短気野郎だと認識していたが、その考えも改めないといけないと反省する。セットしていた珈琲メーカーが終了の音を鳴らした。
「君も飲む?」
 ギアッチョの言葉に返事はしなかった。僕の問いかけにギアッチョは頷いたので、いつも彼が使っているマグカップを取り出した。いつもって言っても、僕が知る限りこのカップはもう3個目だったはず。ギアッチョの髪色と同じ無地で水色だ。
「砂糖5個、ミルク入り」
「砂糖そんなに入れるの?」
「うるせぇよ」
 そういえば、うちは珈琲用の砂糖が消費が激しいと言っていたような気がする。真っ黒な液体にドボドボと望まれた量を入れて彼に渡した。
「美味い」
「それはよかった」
 まだ溶けていない底に溜まった砂糖をザリザリと噛んだギアッチョはまた眉間に皺を寄せた。美味しくても眉間に皺を寄せるのかとそんな彼を見て、自分が朝食を取るためにリビングに来たことを思い出し腰を上げた。昨日買っておいたパニーニ用のパンを使いトマト、モッツァレラチーズにアボカドと好物だけ挟んだパニーニを作った。いざ食べようとダイニングテーブルに座ると、ギュウと情けない音が聞こえた。音と視線を感じ、音の先を辿ればどこか気まずそうな顔をしたギアッチョが珈琲を啜っていた。
「同じ物で良ければ作ろうか?」
「……いらねぇよ」
 言葉とは裏腹に、ギアッチョのお腹からまた情けない音が聞こえた。さっきみたいに素直に頼めばいいのにと少し呆れながら、まだ残っていた材料でもう一つパニーニを作りテーブルに置いた。
「食べたければ食べればいい。いらないなら2つとも僕のだ」
「…………チッ」
 なんだかんだ食欲には勝てないらしい。ドガドガと足音を立てて、乱暴に椅子を引いて座ると勢いよくパニーニを囓った。勢いがよすぎて、囓った反対側からトマトがベチャリと皿に落ちた。その様子が面白くてついつい笑ってしまうと、また眉間に皺を寄せた。
「そんなに慌てなくても取らないさ」
「別に慌ててない」
 ギアッチョのペースは止まることなく、そこそこ大きかったパニーニをあっという間に完食した。
「ごちそうさん。……また今度作ってくれよ美味かったから。……じゃあな凜」
 ギアッチョはボソボソと口早に言うと、リビングから出て行ってしまった。
 最後に名前を言われて、少しだけ認めてもらえたのかな?とどこか心が浮き立つのを抑えながら、自分のパニーニを囓ったのだった。
 
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