26の前の話
 パーティーに必要な一式を揃え、出発する支度をしていた所に部屋のドアをノックする音が耳に入った。返事をすると中に入ってきたのはメローネだった。こんな忙しい時に、一体なんだと聞くと今日の任務の話を耳に入れたらしい。
『オレにメイクさせて欲しい』と申し出てきた彼に怪訝な視線を送れば、こういうの結構得意だからとギャーギャー騒ぐのでまだ時間もあるから、と仕方なく頼むのであった。
「ほら、アイシャドウとかアイライナーとか塗ったりするから目を閉じてね」
「はいはい」
「ベネ。その顔見ると、うっかりキスしたくなっちゃうなぁ〜」
「…………」
「嘘だよ嘘〜。そんな怖い目しないでくれよぉ」
 言われたとおりに目を閉じたら、すぐこれだ。時間が遅くなるだろうと目を開けて、メローネに視線を送った。慌てて弁解するメローネに、しっかり頼むよと念を押して僕は再び目を閉じる。
 こうやって誰かにメイクをしてもらうのは、いつぶりだろう。前チームでは、それを専門の一つとして働いていたメンバーがいたから、たまに練習台になった事もあった。基本的に他人にベタベタと触れられることは好まないが、上手にしてもらえるなら多少の我慢はできた。
「……はい、終わったよ〜。我ながら、ベリッシモ上手くできたもんだぜ」
「ありがとう。メローネ、君って化粧がかなり上手だね。意外だな」
 渡された手鏡を受け取り確認をすると、その出来栄えに感心して世辞ではなく本心からメローネを褒めた。少なくても自分がやるよりも数段と完成度が高く、普段の自分よりも幼く見えるかもと自分自身で思ってしまった。あとは、ドレスを着てウィッグをつけるだけだった。
「次はドレスだね、凜」
「うん。……化粧してくれたのは感謝だけど、早いところ部屋から出ていってね」
 ニコニコと誤魔化して、いつまでも部屋に居座ろうとしているメローネの背中を押して追い出した。そりゃあないよぉ〜とドアの向こう側で嘆きが聞こえたが、しっかりと鍵を締めた。

「……可愛い」
「ありがとう、ペッシ」
 全ての身支度を整えて、リビングへ降りると何人かが集まっていた。僕が中に入ると静まり返ってしまって、その空気に不安だったがペッシの呟きに安堵したのであった。プロシュートやギアッチョ、そしてイルーゾォもパーティ用のタキシード姿に身支度していて、とてもよく似合っていた。そして、いつもこんな格好していればいいのにとそっと心の中で思った。
「リーダー。……僕ちゃんと子供に見えます?」
「オレがちゃーんと子供に見えるメイクをしたんだから、当然だよな? リーダー?」
「あぁ……それなら十分だ。よく似合っている」
 素直に喜んでいいのかちょっと複雑だが、違和感がないのなら大丈夫だろう。ギアッチョにお前髪の毛伸ばせよと言われたり、プロシュートはオレが選んだドレスなんだから似合うのは当然だとか言われる中、イルーゾォから特にコメントはなかった。
 ほんの悪戯心っていうやつで、イルーゾォの傍に近寄ると彼は怪訝そうな顔をする。
「今日はアンナのエスコートよろしくね? お・兄・様?」
 少女のような笑顔を浮かべてわざとらしく言うと、イルーゾォは固まった。
「アンナって……」
「今日使う偽名だよ。そういう事だからよろしくね」
「あっ、あぁ……」
 ぎこちない動作でイルーゾォは頷いた。そして何かを思い出したかのように、ポケットから何かを取り出して僕に渡した。
「これは?」
「……ペンダント型の鏡だ。それなら持っていて違和感がない。何かあったらそれを使え」
 シルバーチェーンの先には、楕円形の鏡がキラリと光に反射して煌めいた。小ぶりのそれは、僕の手のひらにすっぽりと収まってしまう大きさである。
「こんなに小さな鏡でも、出入りってできるものなの?」
「問題ない」
「へぇ……わかった。ありがとう、身につけさせてもらうね」
 ちっちゃい鏡でも行き来できるなんて、なんだかファンタジーやメルヘンを感じるなとそっと思いながらペンダントを首から下げたのだった。
「全員揃ったな、そろそろ会場に向かおうとしよう」
 リーダーの一言で、僕たちはガレージに停めてある車に乗り込んだ。メローネとペッシからお見送りをされると、車はゆっくりと発進したのだった。 
*前表紙次#
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