23の前の話し。
 壁に飾られたカレンダーは、あと一週間で1月が終わることを知らせていた。一日が終わる度に日付にバツをつけた僕は、何とも言えない焦りとそわそわとした落ち着かない感覚が全身を巡っていた。
 早く言わないと、飛行機のチケットを取るのに間に合わないかもしれない。
 だが、チームが変わってからの纏まった休日の申請は初めてなのだ。それらしい理由はすでに用意はしているが、リーダーが納得してくれるのだろうかと不安があったのだ。
 もうかれこれ数分は、執務室の前をウロウロとしている。他にメンバーがいたら、何をしているのだと言われると思うけど、今はリビングには誰もいなかった。こうなったらもう勢いで言うしかない。そう決意してドアをノックしようとした。
「…………何か用事か?」
「えっ……!? うっ、うわぁぁリーダーッ!!」
 唐突に声を掛けられて、思わず驚いて変な叫び声が出てしまった。リーダーは僕のわかりやすい動揺した様子に、そんなに驚かなくても……と無表情で呆れていた。
「……すみません。驚きすぎました」
「いや、別にいい。何かオレに用事でもあるのか? さっきからそこでウロウロしていただろう」
 どうやら結構前から近くにいたらしい。いくら考え込んでいたとはいえ、恥ずかしい姿を見せてしまった。
「えっと……実は、ちょっとお願いがありまして」
 言いづらそうにする僕に、リーダーは特に急かすこと無く言葉を待ってくれていた。
「2月の上旬に、何日か纏まった休みを頂きたくて……」
「それは、ずいぶん急だな」
「すみません、なかなか言い出せなかったんです。僕は今イタリアで暮らして仕事はしてはいますが、国籍は日本になっているんです。それで毎年この時期には、一度戻って色々手続きをしなくてはならなくて……」
 この理由は半分は本当で、半分はこじつけでもあった。組織の収入分なんかの面倒な関係は、組織入団当初から本部で主に事務仕事をしている『親衛隊チーム』が手続きをしてくれている。
 だが副業関係であったり、運転免許の更新やそういった事は全部自分でやらないといけない。そして、今回の帰省での一番のメインは『祖母の墓参り』である。自分の両親の墓参りなんて一度もしていないし、この先もないと思うが祖母のだけは絶対だと思っている。
 リーダーは僕の申し出に少し考え込んでいた。仕事のスケジュールやらの調節をしなくてはいけないのに、言うのが遅くなってしまって本当に申し訳ない事だと思った。
「あのっ。勿論僕の分の任務は、しっかり全部済ませます……休みは無茶でしょうか?」
「いや……ここ最近、そんなに忙しくはないから休んでも大丈夫だろう。だが、凜」
「はい、リーダー」
「凜は真面目だから、言うのに色々悩んだかもしれない。だけど、遠慮せずに言いたい事は言ってくれ。もしかしたら、オレに対してだからかもしれないが。……他のやつらは自己主張が強すぎるから、凜の遠慮がちな所が逆に心配になる」
「あ、ありがとうございます……?」
 これは褒めてくれているのだろうか?それとも不安させているのだろうかは、僕にははっきりと理解はできないが、休日を取ることは成功できたので良かったと言えよう。
「気をつけて行くんだぞ」
「ありがとうございますっ! リーダー!」
 ようやくほんの僅かだが表情が変わったリーダーを見て、僕はようやく安堵したのだった。
 いつの間にか他のメンバーが帰ってきていて、僕が日本に行くことを聞いていたらしい。会話が終わった途端、日本の酒だとか菓子だとか箸やら何やら土産で買ってきてくれと囲まれたのであった。
 
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