22の後の話 イルーゾォ視点
 全くとんだ目にあった。下手に関わり合ったせいで精神力を思いっきり削られた挙げ句、自分の部屋を滅茶苦茶にされた。壁に飾っていた大きな鏡以外の鏡を何枚も割られて泣きそうになったし、霧坂の部屋まで掃除させられたのだ。
『ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ……』
 オレに纏わりついてきた霧坂の嗄れたスタンドの声が、今も頭にこびり付いて仕方がない。

 自分が知らないうちに、チームメンバー達が拷問チームから来た霧坂に対してずいぶん親和的になっている事に気がついた。皆あんなに警戒するとか言っていたのに何でだ?と疑問に思ったし、一番警戒していたリーダーもどこか柔軟的になっている。この前の飲み会の時も、ふと目を覚ましたらリーダーと霧坂が二人で飲んでいて良い雰囲気だったのが悔しいやら腹立たしいと言うか。
 だからなにか弱みを握ってやろうと、霧坂の部屋に置かれている姿見の前に飲み物を飲みながら座り込んでいた。鏡の中から観察をしていると、霧坂はおもむろに鏡の前でポーズを取り始める。どうやら自分の身体をチェックしたようだ。タンクトップを脱いで下着姿になったのを見て、うっかりペットボトルを落とす所だった。リーダーの命令でちょくちょくと監視をしていたが、裸だったり下着姿になったのを見るのは初めてだったのだ。女にしては程よく付けられた筋肉や、滑らかそうな傷一つない肌に、レースがついた薄紫の可愛らしい下着姿に思わず見惚れてしまっていた。気をつけていたのに、霧坂が自分のバストをメジャーで測って何やら喜んでいるのを見て、気が緩んでペットボトルを落としてしまったのだ。
 そして……そこからはもう思い出したくない。

「はぁ……」
「なんだよイルーゾォ。溜息ばっかりで鬱陶しいぜ」
 何度目の溜息をついた所に、メローネがうざったそうにオレに文句を言う。鬱陶しいと言われても、溜息が出てしまうのは仕方がないのだ。
「……霧坂に鏡何枚も割られた」
 恨めたらしくメローネに愚痴を吐くと、思った以上に食いついてきて気持ち悪かった。
「まさかだと思うけどさ、凜の部屋に土足で入ったとか凜の下着盗んだとか、凜のお菓子勝手に食べたとかしてない?」
「鏡の中でだけど、土足で入ったのがバレた」
 お前は今挙げた事を全部やったのか?という質問は置いて、素直にやった事を答えるとメローネはあちゃーと目を手のひらで覆った。
「凜の部屋のドアに掛かっているプレート読んでないのか? 日本では部屋の中では靴を脱ぐから、凜は自分の部屋限定で靴を脱いでるんだ。だから、そこに土足で上がり込むのはかなり怒りに触れるらしい。オレ一回やっちまって、完璧に綺麗にするまでは部屋から出してもらえなかった……逃げようとするとさ、スタンドに両足掴まれて宙ぶらりんにされて股裂きするよって脅されるんだぜ」
 その言葉を聞いて、自分の股間が縮み上がるのを感じた。
 だけど、余計に興奮しちゃってさと付け足すメローネの言葉を聞いてこいつはやっぱり変態だと再認識した。
「だけどさ、凜は食べ物関係や部屋関係で荒らさない限り怒らないよ。うちのチームではペッシやリーダーの次に優しいと思うぜ」
「そうかぁ……?」
 そいつは本当に優しいと言えるのだろうか?オレにはいまいち理解できない。メローネとそんな話をしていると、リビングに霧坂のやつが入ってきた。いざこうやって会うと頭痛がしてくる。さっさと鏡に引き籠もろうかと思うと、あいつはオレの前に立ちふさがった。
「チャオ凜。その大きな包はどうしたんだい?」
「チャオメローネ。……これはイルーゾォ、君に」
 霧坂が脇に抱えていたのは、厳重に梱包された長方形の物だった。メローネに聞かれた霧坂は、ちょっと気まずそうな顔をしながらその包をオレに渡した。
「何々? 凜から何か貰えるなんて羨ましいぜ」
 一体なんだとビクビクしながら包を破っていくと、中から出てきたのはアンティーク調の鏡だった。正直言って悔しいけどオレ好みのデザインだ。
「鏡は君にとって商売道具なんでしょ? この前は、いくら頭にきたとはいえ鏡を割るのは行き過ぎた。……それよかったら使ってね」
 霧坂は一方的に喋ると、さっさとリビングから出ていってしまった。すぐ横から感じる視線から、メローネがどんなムカつく表情をしているのか分かる。
「ねっ? 凜って結構可愛い所あるだろ?」
「……可愛い所なんて言ってなかっただろ」
 優しいのか可愛いのかどっちなんだとメローネに呆れつつ、貰った鏡を割れないように丁寧に仕舞ったのだった。
*前表紙次#
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