できているのは、砂糖よりスパイスのが多いけれど
 キラキラしたアクセサリーに色鮮やかなマニキュアやコスメ、フワフワしたぬいぐるみや繊細に編まれたレース。可憐に飾られた甘く可愛いお菓子。この世には可愛いという物が沢山溢れている。
 
 物心ついた時から男の子のように育てられていた為に、そういう可愛らしい物は近いようで遠い存在だった。服装は常にズボンを履かされていたし、制服も学ランを着ていて可愛らしい服装はした事がなかった。持ち物も、黒や青など飾り気のないシンプルな物で揃えられていた。甘いお菓子なんて勿論駄目。虫歯にもなるし、男は甘い物なんて食べないんだって(同い年の従兄弟なんてバクバク食ってたのに可笑しな話しだよね)。
 でも本当は可愛い物が大好きだ。キラキラしたピアスを付けたくて、こっちの国に来てからわざわざピアスホールを作った。フワフワとした毛並みをした子猫も大好きだし、大人になってからぬいぐるみを部屋に飾るようになった。お菓子は中学から高校まで、先輩・同級生・後輩と様々な女子達から、家庭科の実習で作ったとかバレンタインとかで貰う事が多かった。貴重な嗜好品を手に入れる事ができた時、外面を良くしていてよかったと思えたものだ。
 抑圧されてきたからこそ、大人になってからの反動は大きいと僕は思う。

「あれ? それどうしたの?」
 鼻歌交じりにアジトに帰宅し、自室へ向かう途中にペッシとプロシュートに出くわした。軽く挨拶をし、僕が大事そうに抱えている物を指してペッシが聞いてきた。
「これ? 実はね、お店のウィンドウに飾られているのを見て一目惚れしちゃって」
 包を開けて中から取り出したのは、フワフワで手触りが気持ち良いうさぎのぬいぐるみだった。大きさはバスケットボールぐらいで、グレーのウサギ。目玉が青のガラス玉でできていて、ウィンドウ越しに目が合って思わず購入した物だ。
「ぬいぐるみですかい?」
「ハンっ! おいおい凜よぉ、まだまだバンビーナから抜け出せてないのか? 28歳ならお人形は卒業しなきゃ駄目だぜ?」
 ペッシは目を瞬かせ意外そうな目をし、プロシュートには鼻で笑われた。
「オレは可愛いと思うけど……」
「お前はマンモーニだからな。いい女ってのは、いつまでもガキ臭い物は持たないんだ。自分を美しくする物だけを持つもんだ」
 少しだけ擁護してくれるペッシに対し、プロシュートは諭すようにコンコンと自分の理論を喋る。確かにプロシュートはいい男だからきっと正しい意見かもしれないが、僕にとっては聞いていて良い気はしない。そこまで言われる程、いい歳した大人が持ってはいけない物なのだろうか?
「……別に、いい女だと思われなくても構わないよ。だって君は僕のタイプじゃないもん」
 ちょっと言葉に棘があったと思うが、つい口に出てしまった。本当に子供臭い行動だがこれ以上酷い言葉を言いたくなくて、僕は二人の返事を聞かずに自分の部屋へ戻った。

「あーあ。凜のやつ怒らせて、しょぉ〜がねぇ〜やつだな」
「あんぐらいで怒るもんか? これだから女ってのはよぉ……」
 さっきのやりとりをこっそり見ていたホルマジオは、立ち去る凜の背中を唖然とした様子で見ていたプロシュートに声を掛けたのだった。
「お前が知らないだけで、ああ見えて凜は可愛いもの好きなんだぜ? 部屋の中はシンプルだけどちょっとした小物とか、バイクのと家の鍵なんかはデフォルトしたドクロのキーホルダーを付けてる。あと、猫が好きみたいでオレの部屋にいる猫をよく触りに来て可愛がっているもんだから、オレよりも懐いているし」
 と、ホルマジオはカラカラと笑う。傍に居たペッシは話を聞いているうちにオロオロし始めた。
「凜に悪い事したな……オレもぬいぐるみとか子供っぽいなって思っちまった」
 気弱になるペッシに、プロシュートはこのマンモーニがっ!と叱咤を入れた。
「オレ達にとって煙草や酒なんかを生活の楽しみにしているのと同じで、凜にとって可愛い物が拠り所なんじゃねーの? あんまりゴチャゴチャ言ってやるなよ。いい歳した大人でもそういう部分あってもいいと思うぜ?」
 それにいい男なら、そういうのも寛容に受け止める器が備わっているもんだぜ?とプロシュートをからかうと、無言で蹴りを入れるのをホルマジオは華麗に避けた。
「ああいう普段怒らないやつが臍を曲げると、後々面倒になるぞ?」
「うるせーよ。ハゲがっ」
 ホルマジオの小言に付き合ってられなくなったプロシュートは、悪態をついてどこかに行ってしまったのだった。

「おい」
「?」
 リビングでニュース番組を眺めていた凜にプロシュートは背後から声を掛けた。何事かと目を向ける凜にプロシュートは綺麗にラッピングされた物を渡した。
「何これ?」
「お前にやるよ」
 不思議そうに首を傾げる凜に、いいから早く受け取れよとプロシュートが急かした。チマチマとご丁寧にラッピングを剥がすのを見て、プロシュートは思わず苛つきそうになるのを抑えて開けるのを見届ける。
「……こんな可愛いの貰っていいの?」
 包を開けた凜の目は見開かれ、ゆるゆると頬を緩ませた。いつも作っているような笑顔とは違って本当に嬉しそうな笑顔に、プロシュートは満足する。
 ホルマジオに言われた事は鬱陶しかったが、女にあんな悲しそうな顔をさせてはイタリアーノの名が廃る。ホルマジオの小言を受け入れるのは癪だが自分の考えを改めたのだ。
 そして実際にこうやって笑顔にできたのを見て、必死になって凜の好みを探して来た甲斐があったとプロシュートは思った。
「詫びだ。……お前の好きな物を貶した事のな」
「いや、怒ってはいないけど……?」
「うるせぇな。いらねぇなら返してもらうぜ?」
 グダグダと言う凜からプレゼントした物を取り上げようとすれば、凜は慌てて自分の背後にへと隠した。
「……ありがとうプロシュート。大事にするね」
 柔らかく笑う凜に、行き場を無くしたプロシュートの手は子供にするように凜の頭を軽く撫でたのだった。
*前表紙次#
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