Last
 真夜中の豪雨は、朝になるとさっぱりと降り止んでいた。石畳に広がる水溜りには、青々とした美しい空が映し出されている。小鳥は綺麗な声で囀り、広場では老婆達が楽しそうに雑談をしていた。
 そこを通りかかると、顔馴染みの老婆達にブチャラティ、ブチャラティと声を掛けられあっという間に囲まれる。いつもと同じで、世間話や相談話とか縁談と、歳を感じさせないほど元気よく会話が怒涛巡りされるのだ。そして自分が立ち去ろうとすると、必ずチームの皆で食べてねとか色々渡される。しかも、今日に限って紙袋に入った真っ赤な林檎達。表情筋が引き攣ったが、せっかくの好意をオレには無駄にすることができなかった。

「ヴォンジョルノ、ブチャラティ。もう全員揃ってるぜ」
「あぁ、ヴォンジョルノ。……そうだ、これ朝食代わりにでも皆で食ってくれ」
「ははぁ、また婆さん達から押し付けられたんだな? あいつらにやってくる」
 持っていた紙袋をアバッキオに押し付けると、少し離れた場所から賑やかな声が湧いた。
 
 オレがスタンドを発現させるきっかけになったあの任務から、オレは林檎が食えなくなった。味が嫌いになったわけではない。だが、林檎とあの時のような豪雨を見ると、嫌というほど記憶が蘇ってしまう。淡く消えた恋心とか背筋に走る凍てつく恐怖感、あの任務から数週間後に上司が行方不明になったという情報も。名前は今でもあの館に自我を無くしたまま生活を送っているのだろうか、それとも……とそういう余計な事まで考えてしまうから。
「おーい、ブチャラティ!」
 遠くから仲間たちが呼ぶ声で我に返る。また記憶に鍵をかけて、オレは頼りになる仲間たちの傍へ向かったのだった。




あとがき



 『ブチャラティが林檎を嫌いになった理由』という話で、本当ならば短編の方で書きたかった話です。
 だけど、書いているうちに(これ、短編じゃないじゃん……)ってなってしまって、どうしようかと迷いに迷って中編という事になりました。今回『自我をスタンドに食われた初恋のお姉さんに似た元パッショーネの構成員』という設定の夢主でしたが、『少しでも家族の為になろうと林檎を売る幼女』とかそういう設定の子にしようか色々考えました。
 夢小説のはずなのに、なんか全然甘くないしホラーっぽいし夢小説だなんて烏滸がましい事は言ってはいけないのかもしれない。
 期待して読んでくださった方に、申し訳ない気持ちがありつつ、自分が書いてみたかった話でした。
 とりあえず、今回はブチャラティの話で次に書く中編はまだ未定です。また違う話が書けたら、読んでくださると光栄です。 
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