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 『○月○日:指名客:3名(全て常連客)。 トータル金額:半年は生きていける。 プレイスタイル:全員ノーマル』
 手帳に書き留められているのは、自分の仕事成果である。毎日毎日、日記のようにつけられた業務手帳はもう何冊になった事やら。
 私名前は、とあるギャング組織の御用達のプッタ(娼婦)をやっている。プッタの中での地位は結構高く、今では大金を積まれなければ股を開くつもりもないし、私を買う人達もそれをよく理解してくれている。自信のある容姿と今までコツコツと築き上げた努力の結果で、現在は体に大きな負担をかけることなく、生活に余裕があるぐらい稼げられていた。
 
 そんな私は、いつものように手帳に本日の結果を書き留めて自宅へと戻ろうとしていた。人気の寂しい道を通り、ついこの前にあった強盗事件で閉店している商店の前を通りかかろうとした。
「……っ!」
 誰もいないはずのその商店から、長身の男がフラフラと足元が覚束ない歩きをしながら出てきたのだ。突然の事に、私は悲鳴は出さなかったが驚き足を止めた。
 その男は長身で長い銀髪が特徴的だったが、目は据わりどこか負のオーラを纏っているように見えた。手には酒瓶を持っていて、酒の匂いが私の鼻腔を掠める。
――浮浪者。そう最初は思い、絡まれないうちにさっさとこの場を逃げようと思った。
 だけど、よくよくこの男を見ると、それなりに身なりは整えられていて顔立ちも悪くはない。ただ1つ危ないと思うのは、もしもこの男に刃物類を渡したら、躊躇なくそれで自分の手首や首を掻っ切りそうなぐらい、いつ自殺してもおかしくはなさそうな雰囲気だ。
 ギャングのお客とはよく交わった経験から見れば、この男はギャングではなく堅気の人だろう。だが、ギャング特有の『突然死の予兆』を持っているように思えた。
 男は人を寄せ付けない雰囲気ではあるが、私はどこかこの男に惹かれた。ギャングではないのに、なんでそんな死にたがりの瞳をしているのか。この男にほんの一時のスパイスを与えたら、どう変化するのだろうかと。
「……ねぇ、そこのお兄さん?」
 そう考えているのと同時に無意識に行動に移していた。私はおずおずと酔っ払いの男に声を掛けた。
 男は私の存在に気がついていなかったのか、ほんの一瞬だけ目を見開いて私に視線向けたが、すぐに嫌な顔をしてそっぽを向かれてしまった。
「お兄さん、私と一晩過ごしてみない? ……勿論、これは商売とかではなくて私個人からのお誘い。お代なんて取らないわ」
 わざわざ自分は娼婦だと名乗らなくても、この服装を見ればそういう職業の女だとは察してくれるだろう。意外にも足を止めてくれた男にどうかしら?と畳み込めば、男はその薄暗い光を灯した瞳で私を上から下まで舐めるように見つめてくる。私は改めて真正面からその男の目を見て、なんて惨めで可哀想でまるで人生からリタイアした負け犬のようだと、哀れみと放っておけない保護心が生まれた。母性本能なんて持ってはいないはずだが、いつの間にか自分はこういう男を構ってやりたくなるほど私は落ちぶれたのかと自分でも呆れる。
 男は私の品定めが終わったのか、返事もせずに無言で私の腕を取るとそのまま引きずるように歩き始めたのだった。ずいぶん失礼な男だと思ったが、私も何も言葉にせず男に連れられて足を動かした。
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