が月あかりの下でひるがえる。百円玉二枚を手のひらで受け止めて、シンジは人のいない夜の歩道を歩いていた。車の排気音と共にハイビームが交差点の向こうに消え、街灯が時おりじじっと光を弱める。道の脇に人のいない電話ボックスがぽつんとあって、ケンスケから聞いた怪談を思い浮かべないように目を反らして通り過ぎた。
夏の湿った空気が鼻をつんとさせる。
どうして僕は歩いてるんだっけ。考えながら、シンジは二枚の硬貨を放った。ぼんやりと光る自動販売機と手の中の200円を結びつけて、ああジュースを買いに来たんだと納得する。
喉は乾いていなかったけれど、コーラを買った。冷たい缶はうっすらとした水蒸気をまとい、シンジはその冷たさをもてあましてシャツで缶をくるんで掴んだ。薄暗い道を元来た所へ戻っていく。
舗装された道路がだんだんとせまくなり、いつのまにか両脇に水田が広がる山道に出ていた。学校の裏のあたりだろうか、と憶測する。
周囲にはカエルの声が満ちていた。砂利を一斉に散らばしたような音が延々と続く間、水田は鏡のように月の光を反射している。月の大きい夜だった。晴れた空に時々うすくたなびく雲がよぎり、その影を白い光がくっきり照らした。月の表面には複雑な金色の模様があって、たしかに兎が餅をついているようにも見えるな、と思いながら、シンジは何度目かのコイントスをする。
舞い上がる銀色の軌跡を右手で遮って、気付いた。道の向こうに誰かが立っている。あまり大きくはない。シンジと同じくらいの身長で、スカートをはいている。
その姿をどこかで見たと思うより先に、シンジの目が突然精度を上げて道の突きあたりに焦点を合わせた。あっという間に視界が針の穴のように狭まり、視神経がきりきりと音を立て集中する。騒がしい蛙の声が消えた。
道の果てに立つ、それは青い髪の少女だった。
「あやな――」
「そっちにいってはだめだ」
踏み出した足がつんのめった。コーラの缶が重い音を立てて落ちる。
手首に冷たい指が巻きつく感触があった。
汗を全身から噴き出させながら、シンジは顔の見えない相手に尋ねる。
「どうして」
「君は知らなくていい」
耳元でささやかれた言葉に世界が反転する。静かな夜道は目を焼く極彩色にあふれ、空は水色とピンクのマーブル模様に月光みたいなレモンイエロー。コーラの缶から緑色の液体が吹きだし耳の中で一億の蛙が鳴いた。
これは変だ、これは間違ってる。シンジは叫ぶ。でもなにが? それとも、どっちが?
僕はなにとなにを比べてるんだろう。
わからないままシンジは目を閉じた。


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