131:『負けず嫌い』
(※Twitter未公開)
重なり合わせた薄い皮膚と粘膜を貪り合う。
交わる舌から湿った音が響き息継ぎさえ許さないとばかり、絡め取ってくる舌先を精一杯押し返して意趣返しする。
すると不意をついて上顎を擽られゾクリと粟立つ。
その隙を見逃して貰えず深く角度を変え、舌の根を甘く噛まれてとうとう腰が砕けた。
「…ッ……は…………また、負けた…」
唇を離し水分を含み濡れた目で、自分を支える総士を一騎は睨む。
「キスは勝ち負けじゃない」
慈しむみたいに淡く笑んだその余裕を、いつか絶対に崩してやる。
(※補足:キスだけで一騎を腰砕けに出来る総士。一体何処で習ったんだよ…、って嫉妬込みで隙あらばちゅーを仕掛けて、その度に返り討ちにされてるそんな総一ちゃんも良いなって(笑))
132:『電話をするかどうかで悩んでいる一騎』
(Side:一騎)
楽園に備え付けられたそれにチラチラと視線を送るも、手は休めず調理を続ける。
これと言った用事がある訳では無いが、何故か無性に気になった。
迷惑だろうか?と思うもまたそこへ目が行く。
「一騎くん見すぎ。早く連絡すれば良いのに」
苦笑する真矢に「皆城くんでしょ?」と言い当てられ、一騎は恥ずかしさに俯いた。
133:『電話をするかどうかで悩んでいる総士』
(Side:総士)
手にした携帯端末を見詰め、もう何度目かの溜息を零す。
別に話しがある訳では無いが、妙に声が聞きたくなった。
自分らしくもない…、と思うも再び手元を見遣る。
「総士、30分も悩む位ならサッサと電話しろよ」
呆れた剣司に「どうせ一騎だろ?」と図星を指され、総士は罰が悪そうにしながらも、やっとコールボタンを押した。
(※補足:同時刻に同じタイミングで以心伝心して、電話するかどうかソワソワしてる総一ちゃん可愛いですよね♪)
134:『君とならできる』
(※Twitter未公開)
恋愛直感力の話をしよう。
例えば君が友達だと思っていた相手から急に告白されたとする。
その友達と付き合えるかどうか考える材料として、相手とキス出来るかどうか考えみてくれ。
所謂一つの判断基準だ。
想像してキス出来なかったら「無し」、キス出来たら「有り」って事かもしれないね。
何て会話を誰かがしているのを耳にしながら、総士と一騎は顔を見合わせた。
二人とも見つめ合い数度瞬きしたのち我に返り、慌てて真っ赤になった顔を逸らした。
どうやらお互いに「有り」だったらしい。
135:『痕でもつけて困らせてやろうか』
(※Twitter未公開)
真っすぐでしなやかな黒髪に鋏を入れる。
定規で測り誤差を修正しながら、長かった髪を丁寧に短く切り揃えてゆく。
彼の体から離れた瞬間に亡骸と化すそれは、まるでその命を自らの手が切り落としている気がして、総士は複雑な心境に陥る。
(苛々する…、いや…違うか。これは多分、不安と焦燥だ)
一騎が何故急に髪を切る気になったのか、その理由が分からなかった。
途端に人の気も知らないで呑気に座っている彼に、僅かばかりの八つ当たりじみた感情が募る。
ちょうど眼下には自分を信じ切っている背中と、あらわになった無防備な白い項。
(痕でもつけて困らせてやろうか?)
そう思い立ち、総士はゆっくりとそこへ唇を寄せた。
136:『アンビバレンス』
(※Twitter未公開)
「…ッぅ……」
歪められた顔と堪える様な呻き。
噛み付いた柔らかい首筋の皮膚は傷つき、口内に鉄の味が広がる。
しかし痛みを与えていると言うのに、一騎は一切抵抗せずにされるがままだった。
「痛くないのか?」
「思いっきり噛まれたから痛いに決まってる」
不満を滲ませた声色なのに、自らの傷口へ指を這わせたその顔は微かに微笑んでいた。
「何故笑う?」
「総士がくれる物は例え痛みでも、嬉しいから」
そんな事を言うものだからますます愛おしくて大切にしたいと思う反面、隙間無く自分を刻んで無茶苦茶に暴きたくなる狂暴な衝動。
この相反する感情の名前を総士は理解出来ずにいる。
(補足:【ambivalence】同じ対象に愛と憎しみなどの相反する感情を同時に、または交替して抱くこと。両面価値・両面価値感情。お題メーカーで引き当て初めて知った言葉でした)
137:『砂糖菓子のように甘く』
(※Twitter未公開・総一総)
今まで自分がそちら側である事を当たり前に受け入れていたから、特別不満がある訳でも疑問があった訳でもない。
たたどういう反応をされるのかちょっとした好奇心。
そう、これはただの些細な悪戯のつもりだった。
「俺、総士の事を抱いてみたい」
隙をついて押し倒し、一騎は言い放つ。
「……」
無言で目を瞬かせている総士を見てこれは怒られるかな…と、上から退こうとした瞬間、
「…お前が、」
「?」
「お前がそう望むなら、僕は構わない」
眼下には表情を取り繕おうとしながらも面映ゆそうに頬を染め、ベッドに縫い取められたまま、白いシーツに亜麻色の髪を散らす美しい人。
一騎は自分の理性が切れる音を初めて聞きながら、いつもと逆の視点からするキスは砂糖菓子のように甘い味がした。
138:『あの子が自分を大事にしない分、僕がいっぱい甘やかすんだよ』
(※Twitter未公開・転生現パロ)
生まれた時からの幼なじみ。
家が隣同士で家族ぐるみで交流があった。
幼稚園、小学校、中学、高校、そして大学生になった今でも僕らは離れる事なく側にいた。
相変わらず一騎は穏やかでお人よしで、自分の事より他人を助ける事を優先して、無鉄砲に信じた道を突き進もうとする。
だから僕は一騎が暴走しないよう、誰かに傷付けられたりしないよう、陰日なたにとずっと守り続けてきたし、これからも守っていくつもりだ。
そんな僕は他人から見れば過保護過ぎるだとか、甘すぎるだとか言われる訳だがその度にこう返す。
「一騎が自分を大事にしない分、僕がいっぱい甘やかすんだ。あの時してやれなかった分、めいいっぱい」
『あの時』がこの世界での事じゃないと言うのは、僕だけの永遠の秘密。
139:『ずるい人』
(※Twitter未公開)
トントンと無言で野菜を刻む手が荒っぽい動きをする。
そう俺は怒っているんだ、総士なんかもう知るもんか!そんな心の内を反映させて、一玉あったキャベツはみるみる刻まれ形を無くした。
刻み終え包丁を置いて軽く息を吐いた瞬間、見計らったみたいに背後からフワリと抱きしめられる。
「一騎」
「……」
一度目は伺う様に甘く。
「一騎」
二度目はこっちを向いて?と乞う様に。
(ずるい…)
だってそんな風に呼ばれたら…
「何だよ総士」
「すまなかった、だから機嫌を直してくれ」
振り返った瞬間、許すしか無くなってしまう。
140:『二人の距離』
(※Twitter未公開)
物理的にも精神的にも、彼等は他の誰よりも何よりも互いが互いに近しい存在の様に見えた。
惹かれ合い、求め合い、補い合い、満たし合う。
けれどどれだけ惹かれ、求め、補い、満たそうとも、決して埋められない距離があるのだ。
どれだけ大切に想い、願い、愛したとしても、朝と夜が交わらない様に、空と大地が永久に触れ合え無い様に、太陽と月が絶対に接する事が無い様に、総士が一騎のために生きる事は出来ないし、一騎が総士にその全てを求める事は出来ない。
側に居て1番近くで分かりあっていても、もしかしたら二人は誰よりも遠くの存在なのかもしれない。