141:『弁慶狙いのローキック』


(※Twitter未公開)


一騎は島にやって来た人類軍の様子から、自分が外の世界で英雄として祭り上げられているらしい事は知っていた。
それに加え島外へ派遣に出て様々な過酷な状況に疲弊していたし、共にキャンプ地で生活する中で文化の違いに驚く事も度々だ。


(だからって、これは無い…)


『美しい俺の女神、どうかこの愛を受け入れてくれ』と、この非常時にベースキャンプの一角で同じ男に口説かれる羽目になるなんて。


(俺より総士の方が絶対綺麗なのに見る目ないよな)


なんてズレた事を考えながらどうあしらおうか思いあぐねていると、突然『ゴスッ』と鈍い音と共に、目の前の男が脛を抑え呻きながら蹲った。


「探したぞ、一騎」


現れた総士は悶絶している男に目もくれず、一騎の背を押しアッサリと連れ去ってしまう。


「お前、意外と足癖悪いんだな」

「何の話しだ?僕の足が『何か』に『偶然』当たってしまったのはただの事故だ」


シレっと悪びれない総士に一騎は苦笑しつつ、助けて貰ったお礼を述べる。


142:『もうひとつちょうだい』


(※Twitter未公開)


そのキスは甘い味のするキスだった。
例えではなくて本当に甘かったのだ。


「金平糖?」


唇が離れ一騎は総士から口移しで渡されたモノを、ころころと口の中で転がし、その形と味を舌先で確かめる。


「正解だ」


悪戯が成功して少し得意げな総士を見ながら、一騎は金平糖をかみ砕いて飲み込む。


「なあ総士、もう一つ頂戴」

「金平糖をか?」

「違う、もっと甘い方」


そう言って目を閉じて、キスをねだってみせた。


143:『一番好きな食べ物が答えられない』


(※Twitter未公開・アイドルパロ)


アイドルユニット『ホライズン』。
デビューシングルには真壁一騎、皆城総士、春日井甲洋、来主操、四人のメンバーのプロフィール入りブロマイドがランダム封入。


「総士って『紅茶とクッキー』が好きなの?」


手にした四人分のブロマイドの裏側に書かれたプロフィールを見ながら、操が首を傾げる。


「総士は紅茶よりも珈琲派だよ」

「何でキミが答えるの…」


甲洋からの返事に操は面白くなさそうに唇を尖らせる。


「て言うか、ならこれ総士の好きな食べ物の欄間違ってる」


ずいっと操から目の前に差し出されたプロフィールカードに、総士が苦々しそうな表情を浮かべた。


「イメージがあるから本当の好物は書くなって、プロデューサーに言われたんだ」


理由を教えてやりつつ、フォローついでに一騎が操からプロフィールカードをやんわり取り上げる。


「じゃあ、総士の本当の好きな食べ物って何?」

「『一騎の手料理』…でしょ」

「だから何でキミが答えるの!」


操の質問にまたもや甲洋が答えた事で、さらに騒がしくなった楽屋内。総士はやれやれと溜息を零し一騎も苦笑を浮かべた。




(補足:Twitterでのネタをお借りして『ホライズン』組アイドルパロ。アイドルとしても1番好きな食べ物を答えられないし、楽屋でも甲洋に言い当てられ答えられず仕舞いの総士を書きたかったんですが、思った以上に操ちゃんと大人気ない甲洋さんの話しになってしまいました。この二人書くの凄く楽しいんですが、甲×操って需要あったりするんでしょうか?(笑))





144:『いなくなって初めて気づいた』


(※Twitter未公開・無印とHAEの間)


総士がいなくなって初めて気付いた事なんて、そんなものは沢山有りすぎて言い表しようがない。
昏睡状態から目覚めた最初の数日間、一騎は精神的に不安定でそれは酷い有様だった。
見えない視界で傷だらけになりながら、どうにか総士の痕跡を…彼が居た証を求めて島中をさ迷う。
そうして結局はアルヴィスにある総士が住んでいた部屋へ辿り着く。
微かに残る彼の匂いに安堵して気を失う様に床へ崩れ落ちて眠りにつく日々が続いた。
ただ皮肉にも、この目で総士が世界の何処にも「いない」と言う事実を見ずに済む事だけは、唯一の救いかもしれない。


145:『共犯者の笑み』


(※Twitter未公開・ほの暗狂気系パロ)


冷たい月が照らす路地裏で、一騎は見てしまった。
冴えた銀の刃、鉄臭い赤い水溜まり、凍り付きそうな美しい狂人。


「一騎、どうして僕の後を尾けたりなんかした」

「そう、し…」

「お前には、見られたくなかったのに…」


身動き出来ず目を見開き硬直したままの一騎に、総士が手にしたままのナイフを向ける。
しかし固まったままだった一騎は不意にその手首を掴み、強く引いて走り出した。


「おい、何の真似だ!」

「良いから!一緒に逃げるんだ!」

「正気か!?」


掴んでいた手を振り払われ、くるりと振り返り一騎は無表情のまま言葉を告げる。


「総士の敵になる位なら、俺は何をしてでもお前の味方になれる道を選ぶ」

「何を言って…」

「俺がもし邪魔なら、お前の手で殺して良いから」


そう言って再び手を引き走り出した一騎の横顔に、総士は戦慄を覚える。
うっとりと陶酔し確かに狂気に染まった、共犯者の笑みを浮かべていたから。




(補足:TwitterでLioさんの書く一騎って総士病差し引いても本当に総士の事大好きですよね!て言われたんですが、多分根底にこう言うヤンデレ要素があったり無かったりするからなんじゃないかなぁ…と、ちょっと思ってます(笑))





146:『望むだけ無駄なこと』


(※Twitter未公開)


この世界に『皆城総士』として生まれた瞬間から、己の意志で何かを『望む』事は許されていなかった。
自分の在り方を決められているのに、決して何者にもなれない。
それは『望むだけ無駄なこと』と言うよりは、『望むことすら無駄なこと』だったのだ。
だから一騎と一つになりたいと思ったのは、暴走した同化衝動以上に、総士の本音の『望み』だったのかもしれない。
もしあの時、一騎と一つになっていたら永久に離れずに済んだのだろうか?――と、微かな甘くほの暗い思考に、総士は頭を振り自嘲を浮かべる。


「それこそ、考えるだけ無駄な事だったな…」


147:『幸せになれなくてもいい』


(※Twitter未公開・生まれる前のお話し)


生まれる前に神様から、二人の生はとても過酷で辛いものになるだろうと言われた。
それを聞いた総士は


「一騎だけは幸せにして欲しい」


と願ったけれど、神様は首を横に振って拒んだ。
何故だと問えば、一騎も同様の願いを神様に頼んだらしい。
しかしどんなに願おうとも、二人の希望を叶える事は出来ないそうだ。
だから僕達は、互いが互いの幸せを願った証に生まれる事を選んだ。

例えその記憶がなくても…
例え幸せになれなくても…

共に生きたと言う印を世界に刻むために


148:『だいたいそんなかんじ』


(※Twitter未公開)


足りない、足りない、もう限界だ。
カレンダーに並んだバツ印しに拳を握り締め、一騎は自宅を飛び出した。
目指す場所は一つ、全盛期より衰えた脚力で精一杯急いで駆け抜ける。
そうしてたどり着いたその部屋の前。いつも訪ねる時は呼び出し用のコールボタンを押していたけれど、今日は教えられているパスコードを急いで入力する。
気分的には無理矢理にこじ開けてやりたい心境だったけれど、アルヴィスの強固なセキュリティじゃそうも行かない。
シュッとスライドする音と共に扉が開く、中には今まさに研究施設から着替えだけしに戻りました、と言わんばかりに身支度を整える総士の姿。
それを見るなり一騎は飛び付く様な勢いで、無言のまま総士へ抱き着いた。


「…なっ……え……一騎?!」


体勢を崩しそうになりながらもどうにか一騎の体を受け止めたが、突然の出来事に総士は唖然としている。そんな彼に一騎は、


「……二週間」


ぽつりとそれだけ零し、ぎゅうぎゅうと遠慮なく引っ付いて離れてやらない。
しかしそれを聞いてハッとした様子の総士は、頭の中で最後に一騎に会った日から今日までの日数を数えてみた。キッチリ二週間…、忙しさに忙殺されるあまり一騎に連絡する事さえ忘れていたのだ。


「電池切れか」

「総士が足りないから、だいたいそんな感じ…」

「すまない」

「今日充電させてくれるなら許す。て言うか、ちゃんと休めよ」


二週間ぶりの休暇申請は働き過ぎを心配されていた職員達により、休養期間を数日に増やされた上でアッサリと許可が下りた。




(補足:長さ的に短文より短編かな?と思いつつ、1000文字未満なんでここに収納)





149:『最終手段』


(※Twitter未公開)


「そろそろ起きろよ」


寒い冬の朝、総士のベットにこんもりと布団の繭が出来ている。
一騎はそれに向かって声を掛けるが反応がない。


「総士、聞いてるのか?」


モゾリと動く気配はしたが起きてくる気配は無い。
こうなったら最後の手段とばかりに、一騎は繭と化してる布団に手を掛け、


「いい加減に起・き・ろッ、うわぁっ!?」


盛大に掛布を剥ぎ取ってやった瞬間、伸びてきた腕に掴まれベットに引きずり込まれる。


「総士!」

「寒い…」

「だからって最終手段で俺から暖を取ろうとするなよ…」


150:『新婚ごっこ』


仕事を終え部屋へ戻ると一騎がいた。


「出前、夕飯まだだろ?ついでにお風呂も沸かしといた。どっちにする?」

「お前にする、と言う選択肢はないのか?」


その切り返しに一騎は一瞬目を瞬かせた。
そして総士の言葉の意味を理解し、可笑しそうにクスクス笑いながら、


「総士って案外ベタなのが好きなんだな」


なんて言いつつ、ご飯もお風呂も後回しにして労ってくれた一騎は、本当に良く出来た良妻みたいだった。