111:『喪失の予感』


(※Twitter未公開)


夜の砂浜を二人で歩く。
静かな薄闇、心地好い波音。
雲の隙間からは星々が無数に煌めいていたけれど、ここからは遥か遠い。
そんな幻みたいな小さな光りを求めて、一騎が宙へと手を伸ばす。
繋いでいた指がスルリと解けた。


(駄目だ。行くな、一騎…)


離れた手を引き戻し何故かそう口走ってしまいそうになって、総士は眉を寄せ動きを止めた。

どうかこの予感が外れてくれと願いながら。


112:『なにも欲しくなんかないよ』


(※Twitter未公開)


「他に何か欲しい物とかあるか?俺、届けに来るよ」


数日、忙しくアルヴィスに詰めていたら、出前に来た一騎に甲斐甲斐しく世話を焼かれそう聞かれる。
疲れていたし、癒されたかった。
だから正直に答える。


「お前が欲しい」

「へ?」


きょとんとしてそして言葉の意味を察した一騎の頬が、みるみる淡いピンク色に染まった。


「そう言う意味の欲しいものじゃなくて!」

「それ以外はなにも欲しくなんかない」


113:『腰を抱く』


(※Twitter未公開)


膝上に置かれた頭の重み、緩やかに伏せられた瞼、呼吸に合わせて上下する胸。
自分の膝枕で眠る総士を眺める、穏やかな時間に一騎の心は安らぐ。

「ん…」

急に総士が短く呻きごろりと腹部側へ頭を寄せる様に寝返りが打たれ、両腕が一騎の腰へと回された。
モゾモゾと落ち着きの良い場所を暫く探り、再び規則正しい寝息を零し始める。

「…かわいい」

子供が甘える様な仕草だった。
一騎は自分の頬がどうしようもなく緩んでいる事を自覚する。


114:『ふたりぼっち』


広い雪原。
前を歩く一騎のコートが風雪に靡きはためく様は、そのまま風にさらわれて彼を何処かへ連れ去ってしまいそうに見せた。
咄嗟に裾を掴んで引き寄せ、一騎を背後から抱きしめる。


「どうしたんだ?」


と、いつもと変わらない声に安堵し、その肩口に額を押し付け総士は呟く。


「お前がいないと寒くて耐えられない」




(※補足・新EDのコートにやられました。
寒さに耐えられない訳じゃなく、本当は「寒くて」以外の言葉が本音なのに、言えないんです彼は)





115:『逃げ道をくれない』


「こんな所で誰か来たらどうするんだよ」

「安心しろ、人払いはしてある」


そう言われ腕の中へ閉じ込めらる。
身をよじれば首筋を甘く噛まれ、抜け出そうと空を掻けばその手に指が絡み、抗議の目は優しく慈しむ眼差しで制された。


「総士ッ」

「諦めろ、逃がすつもりはない」


最後の手段で開いた唇も、結局総士のそれで塞がれてしまう。




(※補足・それどころじゃない深刻な環境だけど、移送キャンプ中にこう言う事になってないかなって、妄想位良いじゃない!(笑))






116:『しゃらっぷ、きすみー!』


(※Twitter未公開)


「一騎、僕はお前を―――」


抱き寄せられ鼓膜へ囁かれた言葉の意味と甘さに、脳味噌が沸騰して茹だったのではないかと思った。
ごく稀に総士は何かスイッチが入るとこうやって唐突に口説きだす。
普段不器用な癖に、別人みたいに聞いている方が恥ずかしくなる熱烈な台詞。
もう一騎の何もかもをとっくに手に入れている癖に…

流し込まれる愛を乞う言葉の数々に、とうとう耐え切れず頬を真っ赤にして叫ぶ。


「総士!分かった…、分かったから少し黙ってくれ」

「ならお前が物理的に僕の唇を塞げば良い」




(※補足・「しゃらっぷ」と「きすみー」を別々に分担させてみた(笑))





117:『自分だけ知ってればいい』


(※Twitter未公開)


移送キャンプにいると自分達は嫌でも目立つ。
特に一騎は人類軍の中で英雄として語られているから尚更だ。
少し外を歩けばやはり人目を集めてしまう。

憧れ、羨望、尊敬、好奇…

それらに混じって「歪んだ欲」を含んだ不愉快な視線が紛れ込んでいて、総士はその度に射殺さんばかりの殺気をその送り主達へ叩き付けて牽制する。
一辺の視線も片時の想像ですら、一騎を汚す事は許さない。
彼がどんな風に乱れどんな風に鳴くかなんて、自分だけが知っていればいいのだから。


118:『本当に不器用なあなた』


(※Twitter未公開)


総士は自分の部屋から自販機までの歩数を紹介したり、シチューを作るのに温度計を使ってしまうような性格だ。でも、だからって…、


「良いか一騎、つまりサイトカインの減少とともに癒しホルモンであるオキシトシンが上昇する傾向がある。またストレス物質であるコルチゾールが低くなったと見られるデータも確認出来た。つまり双方にとってより良い安心感と快眠が促進される事になる」

「……お前って、本当に不器用だな」


『何もしないから一緒に寝よう』って普通に言えば良いのに、それじゃまるで何かの研究発表だ。


119:『待ち合わせの時間より早めに来ている二人』


(※Twitter未公開・現パロ)


『出かけないか?お前と僕の二人だけで』


そんな風に初めて誘われたデートに一騎は舞い上がっている。
だから時間の30分も前に待ち合わせ場所付近に来てしまった。
きょろきょろ指定された場所を探していると、


「ねえ、あの人すごい美形…、待ち合わせかな?」

「うん、綺麗な顔してる。あれ?でもあの人1時間前にここ通った時もいたよ」

「嘘、あんなイケメン1時間も待たせるとか恋人かな?」


なんて女性達の会話が耳に入った先で、自分より「かなり」早めにきている総士の姿を一騎は見つけた。




(※補足・平和な世界軸で初々しい初デートする総一ちゃんに夢を見たかった…)





120:『妖しき月夜』


(※Twitter未公開・妖怪×人間パロ)


大きな紫の月が夜空に浮かぶ。
飲み込まれそうな暗いに闇夜ぽっかりと…
一騎は着物の裾を開けながら、駆け足で家路を急ぐ。
こんな夜は身を隠さなくてはいけない村の掟なのだ。
はあはあ、と息を切らして走る。
もう少し、後少しで村に辿り着く、と安心した瞬間――


「今宵は妖の領域。禁を破って出歩けばその魂は僕の贄だ、人の子よ」


声がして振り向けば真っ白な装束に紫の襷姿の青年。
美しい顔、その片側の瞼に走る傷跡、獣の耳と九つの尾、神々しいばかりの一匹の狐。
気付いた時にはその腕の中、一騎は囚われてしまっていた。