091:『とっちゃ、やだ。』
(※20歳↑パロ)
酔っ払いとは得てして厄介だ。
一騎の場合「やだやだ」と幼児返りしてぐずって駄々をこね、ベッタリくっついて離れなくなる。
「一騎、飲み過ぎだ」
「総士は俺のだからとっちゃ、やだ」
全く会話が成り立たない。
本当に厄介だ。
潤んだ目に上気した頬、この可愛い過ぎる生き物どうしてくれようか。
092:『「まて」や「おすわり」には従えても「おあずけ」は従えない』
(※獣耳パロ)
犬を飼い始めた。
美しくて賢くて飼い主の一騎に直ぐに懐いた。
「おすわり、まて」
優雅に脚を組み座って待機した亜麻色の髪の綺麗な犬。
「総士は本当に賢いな」
「なら一騎、ご褒美が欲しい」
「へ?」
総士の手が一騎の服を脱がそうと伸びてくる。
「こら、おあずけ!」
「悪いがそれには従えない」
093:『縁のない話』
6月の花嫁は幸せになれる。
古いアーカイブの記録に盛り上がる女性達の会話が聞こえた。
「僕には縁の無い話だ」
「総士なら綺麗だから似合うんじゃないか?ウェディングドレス」
一騎の言葉に総士が眉を顰る。
「冗談だって」
「いや、あながち無縁な話しとも言えないか。僕はお前に白無垢を着せたい」
「…え」
094:『世界の終わりに』
救いと希望を信じて、優しい残酷な夢を追い続けてきた。
「皮肉だな」
「うん」
全てを失い後は滅びるだけの世界の終わりに、背負った使命からようやく解放されたのだ。
「でもやっと手に入れた、総士」
「ああ、これでお前だけを想って逝ける」
身を寄せた二人は美しい結晶になり、淡い緑の燐光と共に儚く砕け散った。
095:『お腹いっぱい君をください』
総士は飢えている。
だから獲物が息も絶え絶えでも、散々に食い散らかすのだ。
「そう…し」
「酷い声だな」
「誰の、せ…だと」
「僕以外だったら大問題だ」
甘やかす仕種に油断して、喉元を軽く噛まれた。
あんなに食べたのにまだ満たされない。
そんな総士に一騎は苦笑しながらも、小さく頷き惜しむ事なく己を賄う。
096:『愛してみろよ』
自分を愛せなかった。
ずっといなくなってしまえば良いと、嫌悪した蟠りが消えても自信が持てない。
だから好きだと言われた瞬間、一騎は喜びよりも絶望した。
「何で俺なんかを?」
「お前をそんな風にしたのは僕だ」
「愛せるものなら愛してみろよ…」
「悪いが今も昔も、一騎だけを愛してきた。これから先もずっとだ」
097:『最初から最後まで』
「いいのか?」
と問われ小さく頷く。
「お前に無理はさせたくない」
と告げられ淡く笑む。
「今ならまだやめてやれる」
なんて言葉に首を振り、
「どうしても耐えられなかったら、遠慮なく僕を殴って止めろ」
とまで言われ少し呆れて、愛おしさが溢れる。
結局最初から最後まで、一騎にとって痛みでさえ幸せでしかなかった。
098:『多分上手く笑えていない。』
「これお前に渡して欲しいって」
差し出された恋文ですと言わんとばかりの封筒。
一騎は多分上手く笑えていない己に気付いてない。
「そんな顔をするなら受け取って来るな」
「でも…」
「一騎にはその権利がある。お前は僕の何だ?」
「…ッ」
手紙を奪って後ろに放り投げる。
お前以外は必要ないと引き寄せ抱きしめた。
099:『お風呂上がりの髪を拭いてあげる』
総士の髪の手入れをする事は、一騎の密かな楽しみだ。
だからお風呂上がりの濡れた亜麻色の髪の水分を、丁寧に丁寧にタオルで拭き取っていく。
「随分楽しそうだな」
「うん、楽しい」
「自分で言うのも何だが、長いし面倒じゃないのか?」
「コレも総士の一部だと思うと、ただ愛おしい」
「ッ…そうか」
「うん」
100:『逃げるものは追うしかない』
壁に押し付けられ唇が触れそうな距離だった。
「総士、離せよ…」
「逃げるものは追うしかない。やっと捕まえたお前を、僕がそう簡単に離すと思うか?」
この獰猛な支配の色を滲ませる双眸に、捕まってはいけなかったのに…
「お前の負けだ一騎、諦めろ」
言葉とは裏腹に、拘束するため絡みついた腕は酷く優しかった。