061:『ずっと、待ってる』
「…怖い」
組み敷かれ無意識にぽつりと呟き、震える一騎を総士は優しく抱きしめた。
「だから言ったんだ無理をするなと」
「でも俺、自分から言い出したのに…」
「気にするな。焦らなくて良い、僕はいくらでも待つ」
一騎が自分を待っていた時間を思えば、どれだけでも喜んで待ち続けられるだろう。
今はただ言葉を交わし笑う一騎の側にいれるだけでも幸福なのだから
062:『惚れ直した?』
「ほら、出前。どうせまた食べてないんだろ?」
お弁当を受け取り礼を述べる総士の分かり難い表情が、微かだが嬉しそうに緩んだ。
だから冗談半分で言ってみる。
「惚れ直した?」
なんて。そしたら…
「惚れ直す必要なんて無い程に、僕は一騎しか見えてないが?」
と真剣に返され、こちらが落とされてしまった。
063:『いつもの癖』
「すまない、呼出しだ」
食事の途中で総士にアルヴィスから連絡が入った。
「そっか、じゃあ料理取っとくから」
「ああ、悪いが頼む」
「うん、行ってらっしゃい」
総士の頬へ送り出す挨拶のキスをしようと唇を近付け…
「一騎先輩!ここ店ですよ!?」
暉の叫び声で我に返る。
「あ、ごめん。いつもの癖でつい…」
064:『左手の指輪をうっとり見つめている』
片手を空に翳して見詰める。
「サイズがきついのか?」
的外れな事を聞かれ一騎は首を横に振る。
「違う、ただ夢じゃないんだなって」
同じ物が総士の左手の薬指にも嵌まっていた。
自分達は男同士だ、この指輪に法的な拘束力は何もない。
でも、お揃いのそれは何だか擽ったくて、嬉しさと幸福がジワリと湧いた。
065:『いえない我儘』
理解も納得もしている。
分かり切っている事は、今更口にした所で何が変わる訳でもない。迷い悩む事は無意味に等しい。
自分達は島を守るための存在。
生まれた時から定められていた運命。
限られた中で自らが選択した道だ。
だからこれは永遠に言えない我儘…
(お前のためだけに生きてみたかった、一騎…)
066:『恋人未満から抜け出す機会をうかがう』
(※現代パロ)
友達以上である事は確かだ。
でも恋人かと聞かれると正直分からない。
関係性にこだわる訳じゃない、ただ今以上にもっと特別な関係になりたいだけ。
(今ここで好きだと告げてキスをしたら、どんな顔をするだろうか?)
カフェで美味しそうに珈琲を口にし微笑む一騎の唇を、総士が強引に奪ったのは、三分と四十秒後のお話し。
067:『僕を見つけて』
「遠見、一騎を見なかったか?」
楽園へ入って来た総士に、真矢は首を横に振る。
「そうか。最近妙に避けられている気がする」
「違うと思うな。一騎くん、皆城くんに見付けて貰えるのが嬉しいんだよ」
その言葉に総士は急いで外へ飛び出し、一騎を探しに出ていった。
「そうでしょ?一騎くん」
覗き込まれたカウンターの下、隠れていた一騎の顔は真っ赤だった。
068:『君が天使で僕が悪魔で』
(※人外パロ)
心を惑わせ悪しき道に誘うのが悪魔だが、実は清らかで無防備で無垢な存在ほど無意識に誘惑してくる。
真っ白な羽根を背に一騎が総士の黒い翼へ頬を寄せ慈しむ。
「総士の羽根、綺麗だ」
「僕は悪魔だぞ」
「うん、でも俺は総士が好きだから」
ほら、曇りのない目がどうか汚してと惑わせてくる…
069:『ずっとそばにいて』
虚ろな目で一騎が繰り返す。
「総士が、総士が…、砕けて消えたんだ俺の手の中で」
時折、ふらりと総士の部屋を訪ねて来ては一騎はこうして不安定になる。
悲痛な姿を見ていられず強く抱き締めてやれば、次第に目の焦点が定まり…
「…そう、し?」
「ああ、僕はここに居る」
「お願いだから、もう置いていかないでくれ…」
そのまま気を失い目元に滲む雫に、自分が付けた傷の深さを総士は思い知る。
070:『考え事をしていると近くにあるものを積み上げてしまう』
目の前には書類や本の壁。
総士は考え事をすると手近にある物を積み上げてしまう。
癖だと分かっているが、正直面白くない。一騎は殆ど無意識に壁を崩した。
手で押して、雪崩を起こせばそれは総士を直撃する。
「ッ!?…痛い。何するんだ一騎」
「あ…、ごめん。俺と総士を隔てる壁みたいで嫌だったから…、つい」