181:『誰にもいえない、こんなことは。そう、あなたにも』


(※Twitter未公開:19歳、総→(←)一)


堅物だとか、神様みたいだとか、挙げ句この体は殆どが珪素で構築され人間のそれとは違ってしまっているけれど、身も心も限りなく人に近しい形と機能を模して再生されている。
お腹は空くし、疲れれば作業効率が悪くなり、夜は当たり前に眠くなった。
最近は大分マシになったものの、不器用故か表情が読み取り辛いとも言われるが、嬉しい楽しい悲しい腹立たしい等、己の中で当たり前に感情の起伏も存在している。

だから当然、彼が望まない衝動や感情にも苛まれる訳で…


「………一騎、その格好はどうなんだ?」


自分の目の前で幼馴染みであり、誰より信頼を寄せている友人真壁一騎の振る舞いに、どう注意したら良い物かと皆城総士は頭を抱えた。


「これ楽なんだ。お前しか見てないし、大丈夫、大丈夫」


タンクトップにショートパンツ。
確かに気候が温暖なこの島では多少の薄着は許容範囲だったが、問題はその上に丈が長めのエプロンを装備している事だ。
上手い具合に着衣が隠れ肌が露出している部分だけが取り残されてしまっていた。
正面だけ見るとまるで何も着ていない裸体に、エプロンだけ付けている様に見えてしまう。
オマケに邪魔だからと肩まで伸びた髪は、後頭部のやや高い位置で結わえられ、白くなだらかな曲線の首筋が惜し気もなく晒されていた。
時折ずり落ちかける肩紐を、少々気怠そうに直す仕種が視界にチラつく。


(………目の毒だ)


沸き上がる劣情はこの無防備に総士を信じて振る舞う彼への裏切りになってしまう。
二人の関係は確かに友愛を通り越してはいたけれど、何者にも汚されず侵されない強く美しい絆の様なものだった。
しかし自分の中で一騎に対して、醜い欲や浅ましい感情を抱いている事実に気付いたのは、いつの事だっただろうか?
幼少期のすれ違いを経てようやく良好で穏やかな関係を築けているのだ。だから、


(こんな気持ちは知られたくない…)


日ごとに降り積もって持て余しかける欲求に耐え、彼は今日も感情と衝動を無理矢理飲み込む。

だって……


(誰にも言える訳がない、こんなことは。そう、お前にも…)




微妙な19のお題様より、04

補足:一騎は鈍くて自分の恋心に気付かないで、総士は自覚しながらもこの気持ちは一騎への裏切りだ…とか拗らせてて19歳まで両片想いな二人を見兼ねて、回りがくっつけ様とするけど斜め上に拗れるばかっぷるなラブコメが見たいです、神様!!!(笑)





182:『ねぇ。その痛みはやっぱり、くるしいですか?』


(※Twitter未公開:微裏軽SM注意・緊縛師兼責め絵師×モデルパロ)


褪せた畳の上、かろうじて白い爪先が触れ弱々しく床を引っ掻く。
ギッ、ギッ、と彼が微かに身じろぐ度に、軋んだ音をたて和室の梁が鳴いた。
しどけなく開かれた唇からは荒い吐息が漏れて、はくはくと時折悸かせた拍子に口端から雫が伝う。
榛の甘い色をした眼球を包む目の縁は赤く腫れ、涙に濡れた様は何とも艶めいている。
裸体に纏う浴衣は適度に乱され、全身に赤い縄が複雑な綾をなして絡まっていて、天井近くの梁へと繋がっていた。


「まるで蜘蛛の巣にかかった蝶みたいだな。やはり見込んだ通りお前は美しく、そして憐れだ」


見事に縛り上げて吊るしてやった美しい作品の姿を、総士はゆったりと落ち着いた声で誉めそやし、床に敷かれた紙へと筆を滑らせ写し描いてゆく。
そんな総士の言葉に身を跳ねさせた彼の身体に、緋色の縄が甘く噛み付いた。


「…ぅッ…あ………ぐっ……」


耐えてなお自重で食い込む緊縛の紐は、苦痛と快楽のギリギリの狭間、奇妙な感覚を彼へと覚えこませている。
身もだえ喘ぐその様を、総士は冷静に絵筆を握る手元とは裏腹に、酷く熱っぽい陶酔した眼差しでもって愛でていた。
あとで床へ解放した後(のち)、浴衣からはだけた白い皮膚に刻まれる縄目の跡に彩られた姿さえも、余す事なく描き残したいと思う。
それ程に『責め絵』のモデルを頼んだこの真壁一騎と言う青年は、総士の創作意欲を掻き立てた。


「一騎」

「ッ……ぅ、…ぁ…」


総士の視線に声に従順に反応し、自ら苦痛を招き更に絡め取られ深みに沈んでゆく姿が愛おしい。


「綺麗だ」

「っ…ぁッ………」


紙の上の彼の肌を筆で撫でれば、見開かれ瞳から雫が落ちる。



【ねぇ。その痛みはやっぱり、くるしいですか?】



(僕には随分と、気持ち良さげに悦んで見えてしまうのだけれど)





微妙な19のお題様より、05

補足:えっと、あの…一騎を緊縛してみたかったんです(土下座)
とりあえず「合意」でのプレイです(笑)
緊縛師兼責め絵師な皆城さんに見初められ、貧乏苦学生な真壁さんは最初高額なモデル料に引かれてバイトを引き受けるも、絵を描く総士の眼差しや声にゾクゾクしちゃうし、縛り上げられるのも回数重ねる内にドキドキ期待しちゃって、最終的にどMに目覚める訳です。総士は理想のモデル=好みど真ん中な上に、どんどん自分に従順で可愛く被虐趣味に目覚める一騎の魔性にハマって結局まあ、うふふふ♪…←補足が本編Www





183:『たくさんの好きと、たくさんの愛を、きみに』



(※Twitter未公開)


好きだとか愛してるとか言葉にされた事は無かったし、一騎自身も口にした事は無かった。
親友と言うには些か度が過ぎていて、恋人と呼ぶにはもっと深くて重くて絶対的な何か。
自分達は既存の言葉で表す事が難解な関係だ。
しかしこうして体を繋げたりベッドを共にするからには、好意や愛は確かに存在している。


(あ、れ…動けない?)


まだ明け方の寝床の中、自身に絡み付く二本の腕に拘束された状態で目を覚ます。それに一騎は身動きが出来ずに困り果てる。
少しだけ視線を上げれば、己を抱いたまま穏やかに寝息を零す総士の寝顔。
暫くじっと見詰めた後、ふやりと和んだ笑みが自然に浮かぶ。
そしてどうにかして起床するため、この甘い囲いから抜け出せないかと微かに身じろいでみるも、無駄な努力で終わる。


(これじゃ総士に朝ごはんが作れない…)


逃がさないとばかりに回された腕はさらに少しだけ力が篭る。抱え直す様に更にぎゅっと密着されてしまって状況は悪化した。


(ッ…、どうしよう)


けれどそんな一騎の思考を宥めるみたいに、背を撫で後ろ頭に忍び寄る総士指先。
大事に大事に、優しく優しく、一騎の黒い髪をさらりと梳いた。
変わらず穏やかな夢の中に居ながら、無意識に、当たり前に、何の疑いもなく、彼は腕の中のモノを大切に守って眠っている。
寝言一つ声一つ漏らさない癖に、その無意識の腕の中は、溢れんばかりの「好き」と「愛している」で満ちている事を一騎は知っている。


自分達は既存の言葉で表す事が難解な関係だ。

しかしこうして体を繋げたりベッドを共にするからには、好意や愛は確かに存在していた。


それは言葉にされずとも例えばこんな風にいつも不意に与えられ、一騎の心を簡単に溶けさせてしまうのだ。




微妙な19のお題様より、06





184:『永遠にも似た、このひとときに』



(※Twitter未公開)


偶然耳に流れ込んできたその声が鼓膜を震わせる一時が好きだ。


目が合って、何を伝えるでも無くその瞳が優しい色を滲ませるのが好きだ。


並んで歩きながら無意識の内に歩幅を合わせ共に進むのが好きだ。


眠りに落ちる一瞬、網膜の裏に浮かぶ優しい笑顔が好きだ。


たわいもないありふれた言葉を交わす時間が好きだ。


繋いだ指が絡んでじんわりとお互いの体温が溶け合うのが好きだ。


引き寄せて抱きしめた時にホッと落ち着く瞬間が好きだ。


唇が触れるまでのもどかしいその距離が好きだ。


身体を繋げて身も心も一つになれる事も、遠く離れても常に互いへ想いを馳せる事も、何もかもが尊くて、ただ、愛おしい。


そんな事をぽつりぽつりと、優しい秘密を打ち明けるみたいに一騎が耳元に囁くものだから、総士はたまらず彼を捕まえて存在を確かめる様に抱きしめた。


「こう言うのを、きっと幸せって言うんだろ?」


違うと…、それは違うと…。
だって自分は一騎を幸せにしてやれない。これは永遠に似たこの瞬間だけの刹那の幸福だ。
こうやってただ、自分達の背負う運命を誤魔化している…僕は卑怯だと…どうしても言えなかった。

だってあまりにも…、あまりにも、幸せそうな声で一騎が言うものだから、こちらまで本当に幸せになってしまったのだ。
だから総士は泣き出しそうになるのを耐えて、喉元まで出かけた言葉を飲み込むしか無かった。




微妙な19のお題様より、19





185:『あともう少しだけおなじ夢を見たいな』



(※Twitter未公開:『永遠にも似た、このひとときに』続編:一騎Side)


辛そうに言葉を飲み込んだ総士にされるがまま抱きしめられ、それでもやはり幸せだと心からそう思う。

一騎はこれがほんの一瞬の幸せだと分かっていた。


耳に染み込む心地好い声も。


視線が絡まり穏やかな感情を伝え合うのも。


共にゆっくりと歩みを進めるのも。


眠る前にその笑顔を思い浮かべるのも。


何気ないありふれた言葉を交わすのも。


指を絡め互いの温もりを分け合う事も。


抱きしめられた時の安堵も。


キスを交わす震える距離感も。


全てを明け渡し一つに溶け合う瞬間も、離れても心を寄り添わせる事も、何もかも尊く愛おしい夢の様に甘美な刹那なのだ。


薄々気付いてはいる。
総士が背負う祝福は、恐らく一騎から永遠に総士を取り上げてしまうのだろう。
いや、それ以前に少なくとも幼い頃からずっとずっと分かっていた。


(総士は島のためにコアに従い生きる…。俺を選ぶ事も、俺と一緒に生きていく未来も、初めからカケラも微塵も存在しないんだ…)


夢というのは実現させたいと思う願いだったり、未来だったりを表す言葉だ。
そして大概それは現実からかけ離れた空想だったり想像だったりする。
叶いっこない儚く頼りないそれを人は夢と呼ぶ。
ならばこのどうしようも無い過酷な世界の中で、「同じ時間を一緒に生きている」と言う事実はどうだろう?

それこそ二人は今この瞬間も、限りなく奇跡に近い現実と言う脆い夢の中にいるのではないだろうか。


だから…


「総士。あともう少しだけお前とおなじ夢を見ていたいな」


そう呟く一騎の顔はやはり切ない位に幸せそうだった。




微妙な19のお題様より、07





186:『嫌い、だけど好き 嫌いだから、好き』



(※Twitter未公開)


よく好きの反対は嫌いでは無く無関心だと言うが、成る程よく的を射ていると思う。
嫌いと言う気持ちが湧く原因は様々だ。
しかしそれは原因となる物事や人物が嫌で、それらと関わりたくないと思ってしまう感情だ。


受け付けない、受け入れたくない、否定したい、気に食わない、生理的に無理、気色が悪い、不気味だ、怖い、恐ろしい、腹立たしい、不愉快だ、理解できない、目障りだ、羨ましい、妬ましい、哀れで、憎らしい…


だから、関わりたくない、近付きたくない見たくないし、聞きたくない。
好きでないなら無関心になれば傷付かない。無視をしていれば良いだけ。
しかし人間のややこしい所は好ましくないとは思いつつ、「嫌い」な癖に何故か気がかりになって心を占めてしまう傾向にある事だ。
いくら「嫌い」だと形の上で冷たく無関心を装ったとしても、無意識に気持ちを向けてしまう。
そして意識を向けてしまった分だけ悔しくて、苛立ちや悲しみや怒りと言った更なる不愉快を覚える。


「何故だと思う?」


少し楽し気にそう尋ねた総士の横に腰かけた一騎は、「本当は分かりたいのに分かり合えないから」と隣の手元に視線を落とすと懐かしそうに微笑む。


「ああ、だからこの頃の僕はお前の事が嫌いだった」


好きなのに、好きになりたいのに、好きでいたいのに、そうさせてくれず分かり合えなくて「嫌い」だったのだ。
総士が手にしているその写真フレームにはぎこちない14の頃の二人が写っている。




微妙な19のお題様より、09





187:『手を伸ばせば、すぐにあなたに届く距離で』



(※Twitter未公開:学生パロ、一→総)


Come hither, sweet robin
And be not afraid
I would not hurt even a feather


黒板に書かれた白い文字を眺めながら、一騎の脳裏に一人の同級生の顔が浮かぶ。
綺麗な美丈夫はその繊細な美貌のままに、酷く繊細な心根の持ち主だった。


『僕に構わないでくれ』


手を伸ばせばすぐに届きそうな距離、冷たい声音で拒絶の言葉を吐かれたのはつい先刻の昼休み。
けれども一騎は胸に突き刺さった言葉の痛みすら愛おしくなる程に、その彼の目が孤独の寒さに震え、温かさと言う愛情に飢えている事を見抜いていた。


(早く飛び込んで来たら良いのに。そしたら甘やかして、優しく包んで、俺の全部を総士にあげるのにな…。って、これってやっぱり恋って事になるのか?)


自分の感情さえ良く分からないままに、それでも警戒し寒さに震えて愛に飢えるあの綺麗な小鳥を、一騎はその手で大事に囲って温めてやりたくて仕方なかった。




微妙な19のお題様より、08

補足:Come hither, sweet robin,And be not afraid,I would not hurt even a feather(おいで駒鳥ちゃん、怖がらなくてもいいよ、羽一本傷つけないから)

マザーグースの『おいで駒鳥ちゃん』の一節。警戒心の強い駒鳥に「怖くないよ?危なくないよ?優しくするよ?お腹空いてない?こっちおいで〜」って呼びかけてる歌。すぐ手が届きそうな距離まで詰めて、最終的に警戒する相手が自分で飛び込んでくるまで優しくお伺いを立てながら、ゆっくり手なずけてるちょっとしたたかな一騎の一面を見たかった(笑)





188:『今だけは背中を見ててあげるけど、いつかは』



(※Twitter未公開:ROL軸)


伸びやかに、しなやかに、青い空の下(もと)真っすぐ駆け出す姿は、まるで今から天高く飛び立つ前の助走の様だと思った。


「追いかけたそうな顔してる」

「…ッ……」


不意にかけられた声に総士が視線を向けると、木陰に座り込んでいる将陵僚の姿があった。


「そんな所で何を…。顔色が優れないみたいですが、体調が…」

「平気。ちょっと休憩してた」

「…そう、ですか」

「それにしても相変わらず一騎は足速いな。もうあんなに遠くだ」


将陵が指差した方へ再び視線を向ければ、走って小さく遠ざかってゆく一騎の背中が見えた。
総士はただじっと黙ったままそれを見送る。


「追いかけたいなら素直になれば良いのに」

「…別に、僕には関係ありません」


そう言って踵を返した背後でやれやれと軽い溜息が零れたが、総士は振り向かずに歩き出す。


(そう、関係ない)


今はもう…。いや、今はまだ…。
だって一騎はまだ何も知らない。自分達と違って「こちら」側ではないのだ。


だから、今だけは黙って背中を見詰めていよう。けれど、いつかは…



(その「いつか」がいかに残酷かを知っている癖に…、一体僕はお前をどうしたいんだろうな?…一騎)




微妙な19のお題様より、11

初、将陵先輩!
そして昔の不器用拗らせてる総士を書くのが存外キュンッとするのはEXODUSでのラブラブ和解っぷりの賜物だと思います(笑)





189:『溢れ出てくるのはどろどろとした醜い感情』



(※Twitter未公開:戦いの無い世界軸で)


もう駄目だと思った。

大切な幼馴染みに、それも同性の親友相手に向けるべきじゃない感情は、真っ黒な淀みとなってじわりじわりと総士の心を蝕み歪めてしまっている。

幼い頃はただ側に居られるだけで幸せだった。
彼が自分の隣にいるのは当たり前で、その笑顔を当然の様に独占していられたから。
何をするにも、何処へ行くにも一緒で、その胸にはキラキラと優しい感情を煌めかせ、さながら二人だけの楽園だった。

けれど互いに成長するにつれ、総士は気付いてしまう。
彼は、真壁一騎と言う人間は、他者を引き付け好意を寄せられやすい人となりだと言う事に。
歳を重ねる度に二人だけの世界は脆く崩されていく錯覚を覚えた。自分だけの一騎が遠退いてしまう様な焦燥が胸を切なく疼かせる。
徐々に自分の中の抑えが効かなくなってゆく自覚はあった。
そしてまるでグラスの縁ギリギリに注がれた水の様に、空気を入れすぎて限界まで張り詰めている風船みたいに。
きっと些細なきっかけでそれは溢れ出し破裂してしまうだろう。

そう、こんな風に…


「抱き締めたい、触れたい、欲しくて欲しくて仕方がなくなる。いっそお前を僕の一部にしてしまいたい位に。嫌がっても、拒まれても、強引に押さえつけて、お前の意思なんか無視して、何もかも残さず奪い尽くしたくなる。お前の全部が僕のものになれば良いだなんて…、こんな酷い事を…」


溢れ出てくるどろどろとした醜い感情をぶちまけ、苦しくて仕方ない胸の内、己の浅ましさに絶望しながら吐いた言葉だった。しかし、


「嬉しい」


そう呟き、微塵も美しさのカケラすらない劣情を示した総士を、一騎はあろう事か微笑みながら優しく抱きしめた。


「っ…、一騎ッ」


分かっているのかと、自分は今お前に無体を働きたいと口にした醜悪な人間だ。
気は確かかと叫びそうになったのを、一騎の指先が唇に触れて阻止される。


「総士、愛してる」

「お前…」

「俺もお前と同じ意味で総士が欲しい」


そんなのは嘘だと思った。だって目の前の春の日だまりの様な、誰からも愛され慈しまれる可愛い人が、自分と同じに身勝手で独占的な感情を抱いている訳がない。
それに、根本からしてきっと間違っている。


「違う、僕のこれは愛じゃない…。こんな醜い感情が、愛なわけ…」


怯えた様に否定を繰り返す総士に一騎はやっぱり優しく微笑んだままだ。


「総士は優しくて綺麗だな。やろうと思えば出来たのに、そうはしないで苦しんで…。けどお前が言う「酷い事」を俺はもうずっと昔から望んでた」


秘め事を打ち明ける様なささやかさで告げられる。



―――なあ総士、愛なんてただ綺麗なだけの感情じゃないんだよ。と…




微妙な19のお題様より、17

戦いの無い世界軸で普通に恋を患わせたとして、一騎は割と早い段階で自分の気持ちに素直になっていそうだけど、総士は潔癖なきらいがありそうだから自分の中の醜い欲を受け止め切れずに拗らせに拗らせてる妄想。きっと一騎が一個一個優しく解いてくれると思うので、精神的には一×総かな?





190:『いつのことだったか忘れたけれど、なんてことはない日常の片隅を好んだ僕と、偶然にも似た世界の話』



(※Twitter未公開:平和な世界軸で)


――行ってらっしゃい


と、手を軽く左右に振りながら穏やかに見送られる。
ここから出掛けてここへ帰って来る事が当たり前だと思えるこの瞬間が、僕は1番好きだ。
一歩…、二歩…、と足を運び遠ざかりかけてフッと思い出す。
クルリと踵を返し離れた距離を再び詰めると、笑顔で見送り続けてくれていた彼は不思議そうに首を傾げた。


「忘れ物をした」


そう言うと、何を忘れたのかと自分の事でも無いのに彼は必死に思考を巡らせ始める。
だからその隙に、無防備に薄く開かれた柔らかな唇に自分のそれを軽く重ね、ちゅっと音を立てて奪った。


「行ってくる」


思惑通り、目の前には耳まで真っ赤に染まってしまった一騎。
僕は無事に忘れ物を回収出来た事に満足し、今度こそ目的地へ向かって出掛けて行くのだ。


そんなありふれた日常。




お題配布元:HENCE