191:『この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか』



(※Twitter未公開)


――夢だよ、そう…全部夢。だから大丈夫。


そう言って苦々しい顔で納得していなかった総士を、一騎は半ば強引に褥(しとね)へ引き込んだ。
はぁっと、熱を含んだ悩ましい吐息が零れ、寄せ合った身体から体温を与え合い、唇を奪い合う。


(相変わらず、総士は睫毛が長いな…)


そんな事を薄目を開けてぼんやり思っている間に、触れ合っていた唇が解けた。


「…ッ、どうした、一騎?」


掠れた声。欲と艶が滲む眼差し。血色を増し唾液に濡れた唇。
この夢はこんなにも簡単に一騎を狂わせる。
彼のためなら何でもしてあげる。何でもしてあげたい。何もかも全部、全部を差し出し捧げ尽くすから…。だから、


「欲しい…」

「…ッ」


一騎の言葉に総士の表情がまるで痛みにでも耐える様に強張る。
嗚呼、何て不器用で誠実なんだろうか?もう幾度となく、この台詞で言い聞かせてきたと言うのに。


「これから起こる事も、話す言葉も、全部夢だ。だから我が儘を言っても嘘をついてもきっと許される。だって夢なんだから」

「しかし…」

「嘘でも良い、夢でも良い、俺は…ほしいよ?…お前が…」


まるで駄々をこねる子供の様な言い分に、毎回嘘を重ねさせる罪悪感が無い訳ではないけれど…


「………分かった。お前が望むなら、何でも好きなだけ僕の全てをお前に与えよう。僕はお前のものだ、一騎」


この甘美なまやかしの響に焦がれずにはいられなかった。


(だって俺は総士のものだけれど、総士は俺だけのものには絶対になれない)


決して叶わない儚い願望が、この夢の中では偽りとして叶うのだ。


「…嬉しい」


胸に湧く喜びの傍らで、突き刺さる残酷な痛み。それを幸福な微笑みで隠して見せた。


ねえ…

この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか?




微妙な19のお題様より、10





192:『この闇の漆黒を君の髪に透かし、その夜の純黒を君の瞳に映し、陰影の汚れを薄れ去る白黒を刻みつける桎梏の墓碑』



(※Twitter未公開)


真っ黒に染め抜かれた絹地は、地面を引きずる度にしゅるしゅると衣ずれの音をさせる。
透かし模様に織り込まれた見事な慶事の証である鶴が、微かな月明かりにうっすらと浮かび上がって見えた。
裏地と飾りの組み紐のみが深紅で、それを着ている一騎の肌の白さは、なおいっそう夜の闇と衣装の漆黒を栄えさせ、対照的で背徳的な印象を刻む。


「綺麗だろ?冗談半分で総士に見せたいって言ったらみんな本気にしちゃって、こっそり内緒で作ってくれたんだ…」


目深に綿帽子を被り表情は伺えないが、そのしとやかな美しさは僕の目を奪うには十分だった。


「咲良たちの時は白にしたらしいんだけど、俺は男だし黒い方が似合うかなって。どうかな、やっぱり変か?」


鮮やかな赤い紅が引かれた唇は微かに切なさに震えている。
身につけた衣装のせいもあって、まるで緊張と恥じらいに初々しく揺れている様にも見えた。
その憐れなまでの無垢な健気さに、僕は永遠に一騎を桎梏(しっこく)したのだと歓喜すると共に、深い哀しみと切なさと罪悪感に苛まれるのだ。

何故なら一騎が己の姿を見せる先に、物言わぬ『皆城総士』と刻まれた小さな墓碑が一つ。

黒い花嫁衣装を纏い、今はもういなくなってしまった僕の元へ嫁ごうとする一騎に、僕自身はもう二度と話す事も触れる事も叶わないのだから…




お題配布元:HENCE

桎梏(しっこく)とは、自由を束縛すると言う意味の言葉らしいです。
管理人はこのお題で初めて知った言葉だったりします。
一騎に黒無垢着せるお話しずっと書きたかったので、このお題見た瞬間『こ れ だ !』ってなりました(笑)
因みに補足ですが、一般的な花嫁衣装の「白無垢」は『これからあなたの色に染まります』の意味があり、「黒無垢」には『すでにあなたの色に染まっています』という意味があるそうです。
黒は他に何を足しても黒にしかなり得ない不可侵のお色なので、黒無垢を着て嫁ぐのは相手に相当の信頼を捧げている証だそうですよ♪





193:『魔法の指先』



(※Twitter未公開・一総?)


――真壁一騎は魔法の手を持っている。


「総士、目の下の隈が酷い事になってる。いい加減休めよ」


総士の部屋を訪ねてみれば自室にまで研究資料を持ち込み、疲れ過ぎて目が死んでいる彼に出迎えられた。
どうにかして休ませようと説得を試みるも、なかなか応じようとしない総士を見兼ねて、一騎は自分の持っている「魔法」を使う事にした。

まず何か理由を付けて彼の頭に触れるのだ。
こう言う時の総士は、大概いつも綺麗に結わえられている髪もボロボロに乱れてしまっているから、言い訳には苦労しない。
髪を整えてやるそぶりをして、寝不足で艶を失っている色素の薄い髪へ指を差し入れる。そうしたら後はこっちのものだ。
ゆるやかに、優しく、労りながら、時折地肌を擽りつつ何度も何度も、総士の髪を手櫛で梳いてやる。
すると険しかった目元は心地好さそうにふにゃりと解け、次第にうつらうつらと一騎の指先の動きに合わせ総士の頭が船を漕ぎだすのだ。
後は最後の仕上げに魔法の呪文をそっと囁くだけ。


「おやすみ、総士」


ほら、意識を失って倒れ込んできた総士を抱き留めれば、一騎の魔法は完成する。


――真壁一騎は魔法の手を持っている。


彼の使える力は些細で気まぐれで、ある条件が揃わなければ発揮されない能力だったけれど、一騎は自分が使える唯一のこの魔法を、とてもとても気に入っていた。


194:『光の反対は影だったのか闇だったのか、君の対を目指す僕は何になればよかったのだろう』



(※Twitter未公開)


襟刳りの開いたそこから見える首の付け根。
真っ白で滑らかな、まるで白百合みたいなその場所を、いきなり、唐突に、後ろから、抱きしめ顔を埋めて、思い切り噛み付いてやった。
容赦なく、がぶりと歯を立てたそこから、ぷつりと皮膚が破けて赤いものが滲む。


「い…ッ!……」


突然の痛みに小さな悲鳴をあげ、強張って逃げうつ身体を、僕は逃がすまいと強く引き寄せた。

分かたれてしまった。
何にもなれないならば、僕はそれになりたかった。
一つになってしまいたかった。
けれど二人で一つだった。
これはもう一人の自分だ。
だから、僕は僕自身に…


「……酷くしたい」


血に塗れた唇からほの暗い闇の色をした言葉が溢れる。
眼下の項にはくっきりと痛々しい跡が、白い肌を汚していて、さらに僕を深淵の影の中へと誘っている様に見えた。

なのに…


「いいよ」


たった三文字。まるで淡い春の光の様な柔らかな言葉。


「総士が望むなら、好きにしていい」


その淡い光りはいともたやすく僕を引き上げてしまう。
当たり前の様に自分を差し出して、無防備に疑う事なくフワフワと…
こんなにも、こんなにも、いじらしく愛おしいものが『僕』であるはずがなかったのに…


「一騎、僕は…」

「うん」

「酷く…」

「うん」


本当は、酷く『やさしく』したい…と掠れたその声は、振り返った柔らか唇に塞がれる。

一騎は飲み込んだそれを酷く大切そうに自分の中へ仕舞うと、噛み付かれた痛みにすら、ただただ穏やかに笑ってみせるのだ。




お題配布元:HENCE




195:『約束をしよう、それはとてもはかないものかもしれないけど』



(※Twitter未公開)


そう言えば誰かが言っていた。


別離の時に人の心を切なく引き裂き痛ませるのは、『再会の約束』だと。


「また」「いつか」「きっと」「その時まで」


何て不確かで曖昧で儚いものだろうか。
再び会える保証も確証も無いのに。
どうしてこれが最後かもしれないと、思わずにいれるのだろう。

もしもまた会えたとして、きっとすぐに離れてしまう未来を知っているくせに。


『未来へ導け、一騎。そして互いの祝福の彼方で会おう。何度でも』


ほら、『何度でも』なんて。


彼らは何度繰り返すつもりなのだろう…
幾千?幾億?気の遠くなる程の永遠?
最早互いが互いだった事すら薄れ擦り切れてしまった果ての再会じゃないか。
そうやって何度も何度も別れの痛みを、再会の約束を繰り返す事が、彼らの祝福だと言うならば、それはなんて…なんて…


「残酷でくるおしいんだろうな、総士」


それでもそれが総士との約束ならば、きっと守り叶え続けられる。


それがまだ一騎がここにいる理由だから…




微妙な19のお題様より、13






196:『本日は雨。所により局地的に晴れ間が広がるでしょう』



(※Twitter未公開)


ジメジメと湿度は高くムッとした絡み付く微妙な暑さは不快以外の何物でもない。
この時期は人によっては特別悩ましい季節と化すのだ。


「梅雨って何で「梅」なんだろ?」


一騎が口にした純粋な疑問。

六月から七月中旬にかけての日本の雨期。
「梅雨」は「つゆ」だったり「ばいう」だったり、五月雨(さみだれ)なんて呼ばれ方もある。
語源の由来は諸説あって、黴(かび)の生えやすい季節雨を黴雨(ばいう)と呼んでいたが、黴では言葉の感が悪いと、同じ「ばい」の音を持ち季節に合う「梅」の字を当てただとか、梅の熟す頃に毎日降る雨で「毎」の字が揃いで梅雨とするだとか、雨の露(つゆ)と梅の実が熟し潰れる時期の潰ゆ(つゆ)を掛けているだとか様々だ。
なんにせよ「此の月淫雨ふるこれを梅雨と名づく」と古い書物にも残っているし、もしかしたらこの長雨の憂鬱さを、古人達は響きの良い言葉で気休めにしたのかもしれない。
そんな説明を述べながらアンニュイに溜息を零した総士に、一騎がクスッと笑う。


「はい、出来たよ。総士」


コトリと手にしていたブラシを置いた一騎の眼下には、大人しく鏡の前に座る総士の後頭部。
彼の美しく長い髪はこの時期湿気を吸ってボリュームを増し、ふわりとうねって纏まりが悪くなる。
だから梅雨時の総士の御機嫌はあまりよろしくない。それをこうして一騎がどうにか結い上げ整えてやるのだ。


「すまない、助かった。しかし毎年の事ながら憂鬱になるな」

「俺はこの時期毎日総士の髪に触れて嬉しいけど?」


心底楽しそうにそう言った一騎の表情につられ、総士も思わず微笑みを浮かべる。


「訂正しよう。梅雨も纏まらないこの髪もそこまで悪くない」


本日も梅雨前線の影響により、激しい雨となる恐れがあります。しかし所により局地的に笑顔の晴れ間が広がるでしょう。


197:『私が死にたいと願うのはこの世界に疲れたからではなく、生きる希望を失ったからではなく、ただ一つ許されないものの為なのです』



(※Twitter未公開)


死んで花実が咲くものか

死すれば全てが儚く仕舞い

生きてさえいればこそ

良しも悪しきも

花も実も

死ねば何も稔りはしない


なんて、一騎は死に対してそこまでネガティブな印象を持ち合わせてはいなかった。
戦時下でファフナーのパイロットをしていれば、死はいつだって身近にある。
最もそれに馴れてしまったのかと言えば、そう言う訳では決して無い。
ただ一騎にとって死は辛く悲しく淋しい痛みを伴う物ではあるが、死そのものに対しての恐れや嫌悪は薄かった。

いや、むしろ…


「一騎」


頬のラインを辿る指先。
総士の指は顎の先、一騎の頤(おとがい)へと掛かり軽く持ち上げられる。
ほんの少しだけ一騎より背が高い彼と視線が合い、そして唇を塞がれた。

まるで呼吸を奪い合う様な激しさで、酸素が不足した脳はクラクラと眩暈を起こす。
それでも離れ難くて、拒むなんて有り得なくて、ただもう、このまま一つに混ざり合いずっと離れられなくなれば良いのにと、そんな事を願ってしまうのだ。

それこそ…


(このまま死んでしまえたら幸せだろうな)


なんて、憧れめいた思いを抱いてしまう。
だから死そのものへの恐怖が希薄だった。


一騎が死にたいと願うのはこの世界に疲れたからではなく、生きる希望を失ったからではなく、ただ一つ生きている限り決して稔る事が許されないもののためなのだ。




お題配布元:HENCE





198:『時計を止めて時を止める』



(※Twitter未公開)


語らずに「察して欲しい」だなんて、一方通行で都合の良すぎる事を望む程、もう子供では無かった。
しかし大人には大人の事情やら矜持と言う物があるのだと言う事も、彼らは徐々に学び始めている。
19歳、子供と呼ぶには時が過ぎ、大人と呼ぶには未だに拙い。
生きるために急いで大人になってしまったから、我が儘を言う事が極端に下手くそだった。
それは戦いの中で命を預け合い誰より信頼するパートナーでも、穏やかな日常中で何より心を開いている親友でも無い、一時の宵を共にする恋人と言う関係の時程顕著だ。
良き戦友であり、良き幼なじみであり、良き恋人でありたいと願うからこそ、相手を大切に思えば思う程に、許されるであろうささやかな甘えだとか願いだとかまで飲み込んでしまう。

互いを想い合うあまりこうして空回りしてしまうのだ。


「完全に遅刻だな…」

「…ごめん」


ベッドの上で寝過ごして憮然とする総士に、心底申し訳無さそうに正座して俯く一騎。
二人の真ん中には電池が抜かれ夜中で時間が止まったままの目覚まし時計が一つ転がっていた。
それを一瞥して総士は遅刻に関しては諦めた様に端末で遅れる旨を連絡し、小さなため息を吐き出す。


「お前の事だ、悪戯では無く何か意図があってやったんだろう?」


呆れてはいるものの怒っているのでは無く、信頼し優しさが滲む声音で理由を話してみろと問われ、一騎は罪悪感と申し訳なさでますますしょんぼりと顔を曇らせた。


「……」

「一騎」


名前を呼ばれ促されれば、一騎にはもう正直に白状するより他に無い。


「いつも目が覚めたらいないから…」


こうして共に夜を過ごすとどうしても一騎の負担は大きく、目を覚ますと総士の部屋のベッドで一人残されているのが常だった。
別に仕事に遅刻させたかったのではなく、一緒に起きて顔を見て見送るつもりでいたのだ。
平時だと早起きは得意で、昨夜はこっそり目覚まし時計の電池を抜く余力もあった。
だから気合いで総士より早起き出来ると過信した結果、うっかり二人して寝過ごしたと言うこの有様。


「起き抜けは辛そうにしているから、無理に起こすのが忍び無かった」

「俺は起きて総士の顔が見たい。置いていかれるのは…、やっぱり嫌だ」

「そうか」

「うん」

「善処する」


そう生真面目に返事をした総士へ一騎は心の中で小さく詫びる。

だって、半分本当で半分嘘だ。

半分の嘘。少しでも長く一緒に居たくて時計を止めて時を止めた気になっていたなんて、昨夜の子供みたいな己の行いを知られるのは恥ずかし過ぎた。

だから、半分の嘘は秘めておく事にする。

そうして無垢な彼は、少しだけ狡い大人の矜持に汚れた。




お題配布元:HENCE





199:『紫陽花』



(※Twitter未公開)


贈られたその花は、殺風景で生活感の無い総士の部屋の中で、異様な程に浮いて見えた。
一騎が庭先で育てたらしい紫陽花を、ここへ持ち込んできたのはつい先日の事。
わざわざ花瓶まで持参し、テーブルへ飾って行ったのだ。


『綺麗だろ?』


沢山の花弁が密集したそれを一騎が指先で撫でる。
鮮やかな青と紫のグラデーションを描いていた花がユラユラと揺れて、彼の白い指先に戯れていた光景が忘れられない。


『俺だと思って大事にして』


そんな冗談混じりの言葉に囚われて、総士は律儀に毎日水を取り替え、茎へ丁寧に水切りを施す。


「似合わないな」


零した言葉は、かいがいしく一騎に見立てた花を世話する自分に言ったと同時、花を己に例えた一騎に対しても。
咲き立ては淡い黄緑色、それが黄なりの白色になり、薄い青、濃い青、青紫。そして最後は赤紫に色が変わる紫陽花。
その次々と変色していく様から、花言葉の一つが『移り気』なんて言われている。


「移り気どころか、お前は一途だと思うが…」


嗚呼、でも、


「こうやって、僕の色に永遠に染まりきってしまえば良い」


総士の指先に戯れるその花は、毒々しいまでの鮮やかな紫色に染まって、艶やかに咲き誇っていた。



200:『あなたという人が、自分だけのものになればいいのに』



(※Twitter未公開)


同一平面上にあってどこまで延ばしても交わることのない二つの直線。所謂「平行線」と呼ばれるそれは例え互いが限りなく近くに寄り添って居たとしても、永遠に触れる事は叶わない。
求め合うことも混ざり合うことも結び付くことも、決して有り得はしないのだ。
どんなに側近くにあったとしても、その実1番遠い存在と言えるかもしれない。

先程から同じ空間にありながら、二人の間に横たわってしまっている空気は酷く甘くて居心地が悪い。
それに動けなくなってしまった幼なじみの彼らは、互いを見つめたまま、ただぼんやりとそんな事を思っていた。
二人の間にこんな空気が流れる様になったのはいつ頃からだっただろう。
何も知らず幼く無邪気だったものが壊れて、互いを傷付け合った14のあの頃だったか、それとも砕け散った彼が必ず帰るとその約束を守った16から今までの数年の事だったのか。
友を通り越し恋でもなく愛でもない、もっと重くて深い何か。自分達の関係は澄み切っている様に見えて、ふっとした瞬間に酷く甘ったるくどろりと濃密で、完熟した果実を更に砂糖で煮詰めたようなものへと変化する。
口にすればさぞ甘美な味がするだろうそれを、二人はすっかりと持て余してしまっていた。
信頼、絆、仲間。そんなただ綺麗で優しい感情だけを、混じり気のない尊く美しいだけの関係を互いに捧げあえたなら、この持て余す疼きに苦しまずにすんだだろうに。
煮詰まり滴る蜜を零す禁断の実を、共に口へと運び罪を犯せば、こんなにも哀しく切ない絶望を知り得はしなかった。
この身体が、この心が、この思いが、例えどんなに近くに寄り添って居たとしても、触れる事は叶わず、求め合う事を許されず、混ざり合い結び付いてはいけない。
互いに背負ったものがそれを戒めいずれ与えられた祝福は、永久に二人を引き離すだろう。
だからこうしてこの甘い空気が霧散してしまうのを待つしかないのだ。ただじっと互いを見つめ、一言たりとも口にせず、一瞬たりとも触はしない。
どうか最後の瞬間まで、いや、この先何度でもずっと…、二人の心の奥底にある秘密をどうか見逃してはくれないだろうか?

叶わずとも、許されなくても。

これは、


生まれてくる前から殺さなければいけない願いであり、死んでもなお消し切れぬ祈り。



(あなたという人が、自分だけのものになればいいのに)



と…、狂おしいほどにただただ互いを想った。





微妙な19のお題様より、18